第17話 鹿狩り2

 グレコの案内で、カイはソニック・ディアーが生息するという草原にやってきました。


 さっそく透明化の魔道具を使います。ちなみに、浮気調査に使われるのは使い捨てのポーションタイプが主ですが、今回は1日狩りの可能性があるので、何度でも使える魔法石タイプを持ってきています。


「透明化 +8」


 透明化も威力増大が失敗した時のリスクは小さいので、強めにかけました。これで、かなりの長時間、透明になっていられるでしょう。


「おい、カイ、どこにいったんだ?」


「グレコ、お前は、今、私の尻を触っている。目の前にいるぞ」


「ひえっ。す、すんません・・・」


「触りたいときはちゃんと先に断りを入れろ。さて、はぐれないように手をつなぐぞ」


 そうして、カイは右手に単風刃の杖を持ち、左手でグレコの右手をまさぐるように探して握りました。


「先導しろ」


 グレコは断りを入れれば許されるのかを真剣に考えかけていましたが、今日の目的は美食探求だということを思い出して自重しました。


 遠見の魔道具で、遠くが見えるように視力を強くしつつ、草原をさまようこと数十分、見つかりました。ソニック・ディアーです。見た目、大きさは普通の鹿と変わりませんが、角の形が特徴的なためにわかるそうです。群れを作る動物ではないので、1匹だけが草を食んでいます。


「500mまで近づいたぞ。これ以上は、透明化していても、気配で気づかれる可能性がある」


「よし、では、ここから狙撃しよう」


「命中率はどうなんだ?」


「何を言っている? これは魔道具だぞ。魔法攻撃は、反射でもされない限り基本的に必中だ。撃てば必ず当たる。弓矢で気にするような風の影響も受けない」


「本当かよ。じゃあ、早速やってくれ。できれば狙いは首がいいが」


「わがままだな。そこまでの狙いは、集中力の問題だ。善処はする。 単風刃の杖 +5」


 その瞬間、グレコの耳に「シュッ」と空気を切り裂く音がし、2秒ほどが経ちました・・・そして、パサリ・・・500m先で、ソニック・ディアーが草むらに倒れる音が聞こえてきました。


「やったぞ!」


 グレコが歓声を上げました。


「透明化 解除」


「えっ、解除するのか?」


「それはそうだ。なぜいつまでもお前とお手々つないでランランしていないといけない」


 グレコはソニック・ディアーを仕留めた喜びが若干萎えるのを感じつつ、獲物のいた場所に急いで向かいました。


「おお~、見事に首を切り裂いているじゃないか・・・」


「ふむ、単風刃の杖も、対モンスターではなく、日常のハンティングで使うなら有効かもしれんな。私の威力増大がなくても、200mは弓ではもともと難しい距離だ。威力1倍でも、弓の代わりとして、十分ハンターたちにアピールできるかもしれない。新たなマーケティング的発見だ」


「カイは魔道具のことばかりだなぁ・・・これが絶品というソニック・ディアーか・・・転送印で冒険者ギルドの倉庫に送って、あとで預かり賃を払って返してもらおう」


 そういって、グレコはソニック・ディアーを転送しました。


 結局その日は、5頭のソニック・ディアーを狩って帰りました。


 後日、約束通り、グレコはジビエが得意な料理人がいるレストランを予約し、カイにソニック・ディアーをふるまいました。


 どこを食べてもおいしかったのですが、カイが一番気に入ったのは、ソニック・ディアーの脳みそ・・・セルヴェルと呼ばれる部分だったようです。グレコは見た目その他でちょっとひいていましたが、カイはグルメですね。

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