第16話 鹿狩り
冒険者ギルドの依頼書を眺めながら、グレコはひとりため息をついていました。
「ソニック・ディアー、狩りたいなぁ・・・」
ソニック・ディアーは人を襲うモンスターではありません。「音速の鹿」の名前の通り、とても足が速く、警戒心も強いため、近づくことすら困難な特殊な鹿なのです。しかし、その肉の味は絶品とされ、討伐報酬は1匹辺り2万G。
何より、冒険者は、討伐した獲物を換金せずに自分のものにすることもできるため、自分で食べることもできるのです。グレコは、ぜひ一度、絶品だとされるソニック・ディアーのジビエを食べてみたかったのです。
「カイに相談してみるか・・・」
グレコは、カイの店に行くと説明しました。
「ソニック・ディアーを狩りたいんだが良い手はないかな。見晴らしの良い草原に生息していて、とても目がいいから、500m以上近づくと気づかれて、その音速の足で逃げられてしまう」
「普通はどうやって狩っているのだ?」
「透明化の魔法で透明化して500m付近まで近づき、そこから弓で狙撃だな。普通の弓では届かないから、魔法で強化された魔法弓なんかをつかうらしいが、それでも500mだからな。なかなか命中しなくて、狩りの成功率はとても低いそうだ」
「今月はうちは赤字ではないぞ」
「そこをなんとか! 一緒にソニック・ディアー食べようぜ? ジビエが得意なシェフのあたりはつけてあって、持ち込めば料理してもらえるんだ。おごるからさ!」
「ふーむ・・・使えそうなものがあれば・・・」
そうして、カイは店の商品棚や工房をガサゴソと探し回ってきました。
「透明化の魔法が使える魔道具はあるぞ。わりとポピュラーだからな。旦那の浮気を疑った女房や、その逆の旦那によく売れる、売れ筋商品だからな」
「うん、透明化の魔導具があるのは嬉しいけど、あいかわらず世も末だな」
「問題は狙撃だが、一応、昔試作してお蔵入りになった魔道具がある。それが使えるかもしれない」
「おっ、一体それはどのようなもので?」
「かまいたちの杖の効果範囲を絞って、風刃を1枚だけにしたものだ。その代わり射程距離を限界まで伸ばして、200mほどにした。見えない刃が遠距離から飛んでくるという隠密性の高い攻撃を可能にすることを狙ったのだが、さすがに風刃1枚ではモンスター相手では威力に欠けてな」
「でも、今回の相手は、防御力はモンスターと言うよりただの鹿。そして、もともと射程200mの魔導具なら、カイの威力増大で500mまで届く・・・?」
「そういうことだ。やってみる価値はあるかもな」
「やってみよう、やってみよう! 今回はモンスター相手じゃない、危険は全くないから、レジャー・ハンティングだ!」
「では、この仮称・単風刃の杖と、透明化の魔道具を持って、出かけるとしようか。おっと、遠見の魔道具もいるかな。500m先の鹿を見つけないといかんのだから」
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