第12話 鉄化の指輪2

 カイによる、グレコのための鉄化の指輪の開発が始まりました。


 まずは、基本の鉄化の魔法の術式を改造して、鉄化の対象を自分自身だけ、効果時間を0.5秒になるようにしなくてはなりません。


 カイは工房に備えた魔法書と、国立図書館の魔法書を調べて、改造した術式を作りました。

 さしあたり、通常の音声起動でテストすると、無事0.5秒の鉄化ができたので、一安心です。しかし、改造術式の作成で1週間かかってしまいました。


 それから、起動したいという意思だけで魔法を起動させる部分の術式です。これは実績がありましたが、術式が複雑で3次元魔法陣を魔法石の中に刻印封入しなくてはなりません。5層構造になるので、魔法陣としては最難関クラスです。

 さすがのカイといえども、簡単に描くことはできず、設計図とにらめっこしながら、テストを重ねて、魔法石を十数個だめにしてしまいました。


 あとは、鉄化の魔法の改造術式と、意思起動の術式魔法陣を実際に組み合わせた試作品を作る段階になりました。

 2週間が経っていました。


 そんな折、グレコが様子を見に、店に訪ねてきました。


「カイ、調子はどうだ。根を詰めすぎてないか?」


「ああ、いらっしゃい、グレコ。ちょうど目処がついてきて、これから、試作品を作るところだよ。よかったら工房を見学するかい」


「へえ、それは面白そうだ。見せてもらおうかな」


 カウンターの奥へ進むと、工房があり、魔法石に術式を書き込む専用の機械がおいてありました。


「これはどういう仕組なんだ」


「魔法石の中に聖なる光で魔法陣を刻印するのさ。上からの光と、横からの光をそれぞれこちらのダイヤルを回して動かして、上と横の光が交差するとそこが焼けて刻印されるんだ。慣れるまでは頭の痛くなる作業だよ」


「けっこう失敗もするのか?」


「術式が複雑になるほど難易度は上がるし、一度ミスすると戻せないからね。失敗は多いね、特に初心者は。私が研究開発で赤字になる理由もそのあたりが原因さ。刻印をミスしたり、刻印したけど思ったような効果が出なかったりして、魔法石がゴミになってしまうんだ」


「なるほどなぁ。ゴミになった魔法石はどうするんだ」


「ある意味ただの石になるから、ゴミに出すにしても回収業者にお金を取られるぐらいなんだ。だから、しかたなく、工房の隅に積み上げてる」


 そうしてみると、たしかに、工房の隅のクズ魔法石置き場には、どっさりと水晶やその他のパワーストーンが積み上がっていました。


 それを眺めたグレコはふと思い当たりました。


「これ、失敗してだめになったとは言っても、魔力がなくなったわけじゃないんだよな?」


「それはそうだよ。魔力の吐出はできるさ」


「で、中途半端に術式が書かれていると」


「ああ、ついでに私のサインも書き込まれているぞ。魔道具屋はオリジナルの魔道具にサインを入れるものだからな」


「・・・なあ、カイが魔道具を使うときに威力を増大できたり、連射できたりするのって・・・」


「ん?」


「いや、なんでもない」


 グレコは、魔道具について素人の自分がとやかく言うのはやめました。


「カイ、失敗作の山も、研究開発者としては箔がつきそうだから、クズ魔法石はこのままにしておきなよ」


「処分する金を用意する前に、研究開発費に優先で使っちゃうからね・・・当分きれいになることはないね」

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