第11話 鉄化の指輪

「カイ、作って欲しい魔道具の希望を考えてきたんだが・・・」


「やあ、グレコ、いらっしゃい。早速話を聞こう」


 自分からグレコのところに行くときには挨拶すらしないカイですが、店に来られるとお客様扱いの態度が出てしまうカイです。

 お茶も出して、商談用の机で向かい合います。


「例の人質救出で得た報酬の残り8万Gで、できればいいんだが・・・」


 グレコはいったんお茶をすすってから切り出しました。


「鉄化の魔法を使える魔道具がほしいんだ。できれば携帯性が高くて・・・ただし、鉄化するのは自分だけ、1回あたり0.5秒でいい」


「鉄化の魔法か・・・それはまた珍しいところを・・・」


 鉄化の魔法は、過去には勇者などの特殊な人しか使えないと言われていた魔法で、全身を硬質の鉄へと変貌させ、一定時間、物理攻撃も魔法攻撃も、あらゆる攻撃から無敵になる魔法です。後に鉄化の魔法を使うモンスターなども発見され、勇者でなくても使えると考えられてから研究が進み、術式が解明されて、一般の魔法使いでも使えるようになりました。


 ただ、無敵になるとは言え、自分自身も動けなくなってしまうため、使い勝手が良いとは言えず、それほど普及はしていません。


「コンセプトはこうだ。囮役になって戦っている中で、俺の剣や盾での防御をすり抜けられた場合に、最後の砦として鉄化の魔法を自分で使えるようになっておきたいんだ。ただ、通常の鉄化の魔法のように何十秒も鉄化していたら、カイに攻撃が向きかねない。だから、攻撃を受ける一瞬だけ鉄化して致命傷を防げればいい。あるいは、大ぶりをさそって、わざと攻撃を受けて、無防備に食らうふりをして鉄化で防御、すぐさま反撃というフェイント技も考えられる。どうだろう?」


 グレコは自分のアイデアを若干興奮気味に話しました。


「たしかに有効そうではあるな。鉄化の魔法は基本術式は流布されているが、魔道具として製作した人はいない。完全な新規開発になるな。使う魔法石は、それほど上質でなくても、自分ひとりを0.5秒だけ鉄化させるなら魔力量は小さいだろうから、そう高くはならないだろう。逆に、鉄化の魔法をアレンジする術式開発と、魔法石への封入作業の人件費が高額になるな。でも、作れると思うよ」


「やったぜ!」


「携帯性を考えると、例のごとく指輪形式がいいだろう。薬指はとっておいてもらわないとだめだから、中指のサイズで作ろう」


「薬指をとっておかないとだめ?」


「こっちの話だ。起動が速くないと意味がないよね。起動呪文は、シンプルに鉄化でいいかな? 魔導具に身体が触れていれば、音声不要で、頭の中で鉄化と念じるだけで起動もできるけど」


「もっと短いほうがいいなぁ。剣での攻防はコンマ数秒単位だから」


「なら、音声や念までもいかない、起動したいという意思だけで起動するようにしないとね。これまた術式が高度になって値段が上がるな。でも、8万Gでなんとかするよ」


「ありがたい。作るのにどれぐらいかかるものなんだろう?」


「基礎術式開発に2週間はほしい。それから、納品用のものに取り掛かるから、3週間ぐらいかな?」


「まったく問題ないよ。それで頼む」


 こうして、グレコが初めてカイから購入する魔道具の開発が始まったのでした。

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