第48話

 天気は快晴!


 青い水面は太陽の光で輝くよう!!


 夏だ!!!


 夏が来たぞーーーーーーーーーー!!!!



 というわけで、海にやってまいりました。



 まだ記憶に新しい今朝のこと。


 アーディと共に屋敷に乗り込んできたハインリッヒ。


 それは脱獄者である伊織を追ってきたらしい。それは誤解のような、そうじゃないような、だが。



 俺たちを見て、怒り狂ったハインリッヒ。


 それは、俺がエマといちゃつきつつ伊織ともいちゃついていると勘違いしたかららしい。


 ……いや、勘違いでもないか。



 とにかくキレたハインリッヒは、俺を処刑するとか何とか言いだしたので、奴の怒りが静まるまでしばらく非難することにしたのだ。


 アーディや十数名の『聖皇騎士団』に連れられ向かった先は、王族が避暑地として使用している別荘だった。



 そんなわけで海……もとい、プライベートビーチにやってまいりました。


 水着に着替えた俺は、ビーチパラソルを立て、敷いたブルーシートの上に寝そべる。



 はあ……まさかこんなことになるとはなあ。


 せっかく国家反逆罪の冤罪を晴らしたと思ったのに、こんなところに避難するハメになるとは。



 伊織は犯罪者でも脱獄者でもないのに……いや、待て。


 あいつ俺のこと殺したじゃん! 殺人犯じゃん前科者じゃん!


 くそ、ずっと地下牢に入っていればよかったのに……



「おーーいっ! ゆーくーーーーんっ!」


 聞きなれた声に身を起こし、目を向けようとすると、


「お待たせ致しました、ユウ様」


 突然、頭をそっと抱かれた。


 同時に、柔らかい感触と果物のように甘い匂いが俺を包み込む。



「私の水着、似合いますか? ふふっ、ユウ様に喜んでいただきたくて、一生懸命選びました」


 エマの水着は、黒いビキニだ。


 ショルダービキニっていうのか、肩紐にレースのフリルがついている。


 背中はストラッピーデザイン! しかもこれは恐らく止めてあるんじゃなくて、結んであるタイプ! つまり引っ張れば解ける!


 しかも奇麗な足には、やはり黒いキャットガーターをつけている!



「奇麗だよエマ。まるで天使みたいな美しさだ」


「ゆ、ユウ様……そこまで言われると、流石に照れてしまいます……っ」


 気温の所為か羞恥の所為か、エマの顔にはさっと朱が差している。



「ゆーくん。どうして私を見てくれないの……?」


 ヒエッ。


 ビビったのは、だがほんの一瞬だ。



 伊織の水着もビキニ。


 色は白だが、白い布の下からは黒い紐が見えている。……Tバッグか。


 色気の中にも清純さがある水着。流石伊織は俺の趣味を分かってるな。



「とても似合ってるよ伊織。実に美しい」


「ゆ、ゆーくん……」


 パッ、と顔に朱を散らした伊織は、花が咲いたような笑顔で俺の頭を抱いてきた。


「よかった、喜んでもらえて。この水着ね、ゆーくんに喜んでもらうために一生懸命選んだの」



「ちょっと、何をしているんですか? ユウ様が嫌がっているでしょう?」


「それ私のセリフだよ。ゆーくんが可哀そうじゃん。離れてよ」


「貴女が離れて下さい。ユウ様を誘惑するだなんて、汚らわしい……ッ」


「そのセリフも、そっくりそのまま返してあげる」


 なんて争いながら、二人は俺の頭を抱き合うもんだから、


 二人の柔らかな体が、感触が、体温が、甘い香りが……



「ゆう、おまえ……」


 いつの間にか来ていたプロ助が、呆れた視線で俺を見ている。


 スク水を着てやがる。名札がないところは意見が分かれるだろう。


 専門じゃないが……多分旧スクだな。



「最低……」


 その後ろには、軽蔑した視線を向けるアーディの姿も。



 彼女が着ているのは、所謂三角ビキニだ。


 首の後ろで紐で結んであるが……あれは結んであるように見えるだけで実際は止めてあるんだろうなあ。


 腰に巻いたパレオが、大人っぽくてオシャレな感じだ。



「お父様を止めなければよかったわ」


 そう言って軽く鼻を鳴らされた。


 美少女にぞんざいな扱いをされるなんて。俺は……俺は……



「おい、ゆう……」


「しょうがねぇだろ健康なんだから!」




「ユウ様、日焼けオイルを塗って下さいませんか?」


 小瓶を両手で持ち、エマが言う。


「日焼けオイル? なあにそれ」


 とアーディ。


「私が調合した薬です。肌の日焼けを防ぐための塗り薬ですよ」



「へー。自分で作るなんてすごいね、エマさん。ゆーくん、私にも塗ってほしいな」


「駄目です。このオイル一人用なので」


「そんなことないと思うな。日焼けオイルって手になじませて使うものだから、その大きさだと二人か三人分はあるよ」


「あら、そうなの?」


 エマの言葉を信じていた正直者のアーディは目をパチクリとさせた。



「ゆ、ユウ? それなら私にも塗ってほしいのだけれど……」


 顔を赤くし、もじもじしながら頼んでくるアーディ。


 かわいいな、なんて思ってしまうが、



「まったく、お邪魔虫たちが……」


 鬱陶しそうに言ったエマは、何かを思いついた表情となり、


「お姉様。お姉様には私が塗って差し上げます」



「えっ? でも私……きゃっ!?」


 オイルを手に馴染ませたエマは、後ろからアーディを抱きしめるようにして手を前に回し、


「あら、かわいい声を出すんですね。ふふっ」


「ちょ、ちょっとエル! だめ、くすぐったいわ……っ」


「ジッとしていて下さい。塗れないじゃないですか」


「きゃあっ!? もう、そんなところまで塗る必要あるのっ?」


「勿論です。奇麗な肌が傷ついたら大変ですから。だからここも塗らないと」


 エマが紐をほどくと、ハラリ、



「きゃあああああああああっ!?」


 アーディは顔を真っ赤にして、慌てて胸を両手で抱くようにして隠す。


 ……あれ、止めてあるんじゃなかったんだな。



「え、エル……だめっ、見えちゃうわ……」


「仕方ないじゃないですか。こうしないと塗れませんし、困るのはお姉様ですよ?」


「そ、そうなの……?」


「ええ。私はお姉様の為を思って言っているんです。だから、私の言う通りにして下さいますよね?」


 耳元で囁かれたアーディは……コクリ、と小さく頷く。


 そして腕を胸から離すと、水着が下に落ち、白く奇麗で、大きなふくらみが露出した。



 ……………………



「ゆう……」


「だってしょうがねぇだろ!? 目の前でこんなの見せられちゃさあ!」


 いかんいかん。俺は紳士なんだ、見ないようにしなければ。


 隣にいたプロ助を見ると……ふぅ、ちょっと冷静になってきた。礼を言っとかないとな。



「プロ助、お前を見るとなんだか落ち着くな。ありがとよ」


「今日のおまえは輪をかけてクソだなっ!!」

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