第37話

「――うっ、ぅん……」


「エマ、目が覚めたのか?」


 朝、屋敷で目を覚ましたエマは、俺をジッと見ていたかと思うと、



「ユウさまーーーーーーーーっっ!!」



 急に俺に抱き着いてきた。


 思ったより勢いがついていたため、俺たちはそのまま床に投げ出されてしまう。



「お、おい、急にどうしたんだっ?」


「私、嬉しいんですっ」


 耳元で聞こえるエマの声は妙に明るい。



「ユウさまが体を張って私を助けて下さるなんてっ! 私、分かっています! ちゃんと感じていました! 一生ついて行きますわ! 貴方の為なら何でもしますから、どうぞお好きにお申し付けくださいね」


 エマは心底嬉しそうに笑っている。


 体を張って助ける……? ひょっとしてリバドラの件か? 体を張ったのは、どちらかと言えば俺じゃなくプロ助なんだが……まあ、いいか。



「いや、いいんだよ。他ならぬエマの為だからね。何てことない」


 実際、俺はほぼ何もしてないしな。


「それよりも、まだ寝ていた方がいい。病み上がりなんだから」


「いいえユウ様。私なら大丈夫です。ご心配には及びません。それよりお食事にしましょう。すぐに準備いたしますわ」


 言うが早いか、エマはいそいそとキッチンへ向かうのだった……




 あの後、エマは苦しげな表情こそ消えたものの、気を失ったままだった。


 リバドラに魔力を吸われたため、体力回復のための睡眠だろうとプロ助は言っていた。


 プロ助曰く、すぐに目を覚ますだろうとのことだったが、エマは丸二日眠ったままだった。そして三日目の朝、ようやく目を覚ましたのだった。


 大丈夫だろうかとちょっと心配だったが、



「さあユウ様。あーんして下さい。二日間もお食事を作れず申し訳ありません。でも大丈夫、これからは毎日欠かさず作って、ユウ様のお体を私が作って差し上げますわ」


 ……うん、いつも通りだ。大丈夫そうだな。



 朝食を済ませた後も、エマはいつものように家事をしてるんだが……


 だ、駄目だ。また見ちまってる。落ち着かねぇと。


 が、結局俺の視線はある個所……エマのスカートの裾へ。



 エマのミニスカートは、歩く度に裾がふわりと広がって、その奥の布が見えそうになる。が、結局見えずに元に戻り、また見えそうになり……


 何度も何度も繰り返され、俺の視線は釘付けだ。



 ま、まずいな……


 エマが眠ってたから、できなくて溜まってるみたいだ。こういう時に限って伊織はいねぇし、あいつホント何処行ったんだよ。


 とか思ってる間も、俺の視線はふわふわ動くスカートから離れない。



 いかんいかん。


 アーディは公務、プロ助は散歩でいないとはいえ、いつ来るかも分からん。


 それに、もし最中に伊織が帰ってきたら…………この世の終わりだ。



 くそっ! ヤりたいのにヤれないなんて、こんな生殺し酷すぎる!


 こっちはエマが寝てる時からずっと我慢してんだぞ! いくらなんでも寝込みは襲えねぇじゃん!?



 なんて言っててもしゃーない。こうなったら、なるべく関係ないことを考えるしかねぇな。


 気晴らしに散歩でもするかなーと考えていると、



「ユウ様。私、お夕食の買い出しに行って参ります。何かご要望などありますか?」


「いや、特にないよ」


「そうですか。では、ユウ様のお好きな卵料理をお作りします。久しぶりのお夕食ですから頑張らなくては。楽しみにしていて下さいね」


 そう言ったエマは、何か期待するような目をしている……気がする。



「俺も一緒に行くよ。ちょうど外の空気を吸いたいと思ってたんだ」


 試しに言ってみると、エマは「まあ!」と心底嬉しそうな顔になって、手のひらを顔に当て、


「やはりユウ様は私の心が読めるのですね。本当に素敵なお方。貴方様にお仕えできて、エマは幸せ者です……」


 言葉の通り、心の底から嬉しそうな顔で、声で、言うのだった……

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