第36話
――私はお姉様の劣化品だ。
お姉様は、昔から全てにおいて私よりも優れていた。
勉学、運動、社交性、王家が長い歴史の中で積み上げてきたしきたり……
そのどれもが、私よりも優れている。そして――
王族が王族であることの条件。それはそのいずれでもない。
ただ一つ、剣術に優れていること。
お姉様は、剣術にも優れていた。歴代の王族を遥かに凌ぐ天才だった。だが……
私には、剣術の才能がなかった。
本当に、一切だ。
お姉様は現職の騎士団すら凌ぐ力を見せたのに、私は剣を振ることすらままならない。
一度、恥を忍んでお姉様に師事したこともある。
けれど、結果は変わらなかった。
お姉様にとって、剣など振れば当たるもの。けれど、私にはどうしたらそんな風に振れるのかが分からない。
そう、やはりあの人は〝天才〟だったのだ――
或いは、私の後ろ向きな考えがそう見せていたのかもしれないが……
従者たちは、いつも一言足りないような喋り方をしていた。
(――「さすがはアーデルハイト様!」――)
(――「現職の団員にまでお勝ちになるとは!」――)
(――「剣術だけでなく勉学にも秀でておいでとは!」――)
(――「日増しにお奇麗になっていくわ」――)
私には、その後に「それに比べてエイマーレ様は」と付け加えられている気がしてならなかった。
初めはジッと耐えていたが、不意に分からなくなった。
どうして耐えているのか、どうして自分はお姉様より劣っているのか、どうして生まれてきたのか……
きっと、私の長所をお姉様が奪っていったんだ。
最初に生まれたお姉様が、私よりもほんの少し早く生まれたというだけで、私の全てを奪っていった。
だから私には何もない。だから私は何もできない……
そうだ、私は空っぽなんだ。
空っぽの器には、何かを入れないと。
私の足は、何か見えない力に引き寄せられるようにして鉱山に向かった。
そして――
私は力を手に入れた。
左目を失った代わりに、強大な魔力と強力な魔法を使えるようになった。
これでようやく、私にも何かができる。認めてもらえる。そう思った。けど……
私を待っていたのは、罰だった。
王族の掟への反逆。禁呪の使用。
それによりエイマーレ・フォン・ラ・リーベディヒ・アプロを王族から除籍するという無様極まりないものだった。
ようやく手に入れたと思った矢先、私は全てを失ったのだ……
それから、私は日々を抜け殻のように過ごした。
最後の情けとばかりに与えられた家を捨て、国の外に出た。
朝起きて、何をするでもなく過ごして、夜が来たら寝て。
そんな無意味な毎日を繰り返し……
ついに私は、空腹や疲労から、倒れてしまった。
そして……そして、あのお方に出会った。
あのお方は、出会ったばかりの私に食事を与えてくれ、そして私を褒めてくれた。
私の魔法を見てすごいと、私を見て奇麗だと、そう言ってくれた。
嬉しい。
嬉しい嬉しい。
嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい
あのお方は、私を褒め、認め、そして私に居場所をくれた。
あのお方の隣が、私の居場所。
それ以外のモノなんて、必要ない。
ああ、愛しています。誰よりも、何よりも。
貴方が私を必要として下さる限り、私は貴方のモノです。
髪も目も口も鼻も胸もお腹も手も足も、すべて貴方のモノ……
だからどうか、私を必要として下さい。
貴方が望まれることなら、何でもします。
だからどうか、私に依存してください。
たとえ何があっても、貴方だけは裏切りません。
だからどうか、私を愛してください。
空っぽの私の器を、貴方で満たしてください。
どうか、どうか――
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