第27話 甘い同居生活
「おはようございます、ユウ様」
翌朝。
目を覚ますと、至近距離にエマの顔があった。
「ああ。おはよう、エマ……」
「ゆーくん」
ゴキッ、嫌な音と共に、力づくで俺の首を動かして自分の方を向かせる奴がいる。
「そんな女どうだっていいじゃん。それより、私と一緒にご飯食べよ? ゆーくんの為に一生懸命作ったんだ」
「あらあら、あなた朝の挨拶もできないんですか? まったく、育ちの悪さが窺えますね。本当に卑しい女です」
「うるさいなあ……」
伊織が本当に、心の底からうるさそうに言う。
「私とゆーくんは心で繋がってるの。だから挨拶なんてする必要ないんだよ。お前とは違うの。分かる?」
分かるように説明しろ。
「さ、ゆーくん。ご飯食べよ? 私が食べさせてあげるから」
と、伊織は俺の左手を引っ張っていこうとするが……
「待ちなさい」
今度はエマが俺の右手を掴む。
「ユウ様には、私が作った食事を召し上がっていただきます。あなたは一人で食べなさい」
「はあ? あなたこそ一人で食べてよ。どうせあなたの料理なんて、食べられたものじゃないんだから」
「まあまあ、二人とも。そういうことならさ、両方食べさせてよ。俺の為に作ってくれたんだろう? ぜひ全部食べたいな」
「まあ、ゆーくんがそう言うなら……」
「そうですね。ここはユウ様に判定していただきましょう。どちらが、ユウ様のお口に合うものを作れたか」
この後めちゃめちゃ胃もたれした。
~食後~
「ユウ様、余計なものまで食べてお疲れでしょう? そんなときは、マッサージをして差し上げます。私が」
「ゆーくん、どっちのご飯がおいしかった? うぅん、聞かなくても分かってるよ。もちろん私だよね。たくさん食べて眠くなっちゃったでしょ? ねんねする? 私子守唄歌ってあげる」
「それよりもさ、こうしようよ」
俺はどうしようか考えてなかったが、とりあえず言った。
ええと、どうしようかな……よしっ!
「皆で散歩しないか? 食後の運動にさ。皆でこの辺りを見て回ろうよ。ね? いいだろ?」
「散歩、ですか……?」
「ゆーくんがしたいなら付き合うよ! 行こっ!」
「待ちなさい」
伊織が俺の左手を引っ張っていこうとするが、エマが俺の右手を掴んでそれを阻む。
おかげで、俺は肩を脱臼しそうになった。
「あなた、物事を簡単に考えすぎですよ。自分がおっちょこちょいということを自覚しなさい。
……さあ、ユウ様。外出されるならお着替えをなさらないと。先日、新しいお洋服を買っておいたんです。きっとお似合いになりますから、着てくださいね……?」
「ああ、ありがとう。エマの趣味は俺好みだから、助かるよ」
「まあ……それは当然です。だって私たちは、運命の糸で結ばれているのですから。では行きましょう。私が、着替えさせて差し上げます」
「待ってよ……!」
今度は伊織が腕を掴んだ。ただし、俺のではなく、エマの腕を。
「どーしてあなたがゆーくんに服を着せるの? てゆーか、どーしてあなたが服を買うの? それ、私の役目なんだけど……?」
「でしたら、あなたもしてみてはどうですか? でも、どうせありませんよね? あなたトロそうですし、今までもユウ様がお望みになってから用意していたのでは? 私は違います。言われる前に準備して、お望みを叶えることができます。したがって、ユウ様の伴侶に相応しいのは、私です」
「どーしてあなたはそーゆうこと言うのかなあ。大体、ゆーくんは私の……」
「なあ、伊織。この間さ、まだ『リーベディヒ』の地理が分からないとか言ってただろ? 案内するよ、だから伊織も準備してきてくれないか?」
「ゆーくん、覚えててくれたの?」
「当たり前じゃないか。だからさ、ね? 頼むよ」
「う、うんっ! すぐに準備してくるね!」
いそいそと走っていく後姿を見て、俺は、はあ、とため息をつきそうになり、
「ユウ様」
その息を詰めた。
「またあのメスの肩を持つんですね。どうして、私だけを見てくれないんですか……? 私、だけを……!」
「違うよ、エマ」
しかし、前回とは違う。どうせこうなるだろうなとは思っていたさ!
「また戦いになれば、大変なことになってしまう。前にも言ったじゃないか。エマが傷ついたりしたら、俺は耐えられないんだ。エマのきれいな体に傷でもついたら、大変だからね。
それに、俺はこの世界じゃ、エマを一番頼りにしてるんだ。俺自身、来たばっかりだからね。だから、伊織のことも、すこしだけ気にかけてやってほしいんだ。こんなこと頼めるのエマだけなんだけど……ダメ……かな?」
「ゆ、ユウ様……」
すると、エマは顔を赤くして、
「分かりました、ユウ様がそう仰るなら、あのメスの狼藉には目を瞑ります。あんなもの、無視すればいいだけですから」
と、どこか幸せそうに言うのだった。
うむ、問題解決だな。
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