第8話 真夜中の襲撃と衝撃
「大丈夫。何も心配いりません、ユウ様」
エマがニコリと、俺に笑いかかてくる。それから、視線を前に移した。
そこでは白い服を着た連中が、手慣れた、そして統率の取れた動きで屋敷にあるものを運び出している。
そして俺たちはといえば、両手を拘束された状態で床に座らされていて、その周りには、四名の白い服を着た男たちが見張るように囲んでいる。
どうしてこうなったのか。
言わんこっちゃない、と内心ため息をつきつつ、どうしてこんなことになっているのかを思い返していた――
〝俺に仕える〟と言う言葉の通り、エマは朝から俺の世話を焼いてくれた。
朝、俺に食事を作って食べさせたかと思うと、今度は家中を舐められるくらいにピカピカに奇麗にした。
昼になると買い物に向かう。
何気なく俺も行くと言ったらメチャメチャ喜ばれた。
ちなみに、エマのスカートの丈は昨日までより短くなっている。俺がミニスカが好きだと言ったから丈を詰めたらしい。
たまに俺に足を見せびらかすような仕草をするから、なんか……おぉう。
意外にも……と言ったら失礼かもしれないが、エマは買い物上手らしい。
どこへ行っても、上質な食材を安く買っている。それも脅してじゃない。きちんと値切り交渉をして、半値以上に値切れている。
大したもんだなーなんて見ていた俺の横で、
エマはずっと俺の腕に抱き着いたまま、ニコニコと嬉しそうに笑っているのだった。
夕食の食材を買い終えた後、エマは行きたいところがあると言った。
連れていかれた場所は……
「裏路地……?」
人通りのない裏路地だった。
ここが行きたい場所? 一体どういう……
「ユウ様」
見ると、エマはいつの間にか買い物袋を置き、俺に見せつけるようにしてスカートの裾をつまんでいた。
丈を詰めたためか、ちょっとした仕草で下着が見えてしまう。
黒い、生地の小さい下着が。
俺の視線はくぎ付けになり、さっきまで何とか我慢できていた感情に飲み込まれたのが分かる。
とはいえ、流石に外でするのは……
「こんなところで……エマは大胆だな」
「ユウ様がずぅっと私をご覧になっていたものですから。嬉しいです、私に魅力を感じて下さるなんて。けれど、きちんと発散しなくてはお体に触ります。それにお応えするのも、お仕えする私の役目ですもの。ですので、私をユウ様のお好きなように使って下さい……」
ああ、何かもういいや。
これはエマも望んでいることなんだ。
だから何も問題はない。たとえどこだろうと……
またやっちまった……
たとえ賢者になった時にそう思おうとも。
夜。
エマと共に入浴を済ませ脱衣所に出ると、俺はすぐに異変に気付いた。
「……なあ、俺の服知らない?」
「燃やしました」
当然のことのように言われ、思わず絶句。
「申し上げたではありませんか。これからは私が選んだ服を着ていただきますと。今までの服は必要ないのですから、燃やさなくてはいけません」
いちいち発想が過激だなコイツ。そういえば、今日の買い物で服も買ってたっけ。
ま、いっか。さっきまで来てた服、元カノが買ったやつで、俺の趣味じゃないし。
エマが買った服を着て、俺たちは、ともに寝床についた。のだが……
「……なあ、エマ?」
「はい、何でしょうユウ様」
「寝ないの?」
「まだ眠くありませんので。お気になさらないでください」
そう言われても、落ち着かない。
膝枕をしてくれてるエマが、じっと俺の顔を見てくるから。
「さあ、おやすみなさいユウ様。私が子守唄を歌って差し上げます」
と言って、本当に子守唄を口ずさむエマ。
かなり心地がいいが……
じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「…………」
じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「……………………」
お、落ち着かねぇ……っ!
目を閉じても視線を感じる。生前、元カノ……俺を殺した女にもよくやられてたが、マジで穴が開きそうだ。
慣れないもんだなあ。
でもまあ、そこに目を瞑れば(別にシャレじゃない)……
天蓋付きのダブルベッドで美少女の膝枕。なんて贅沢なんだ!
太ももめっちゃ柔らかいし、なんか甘くていい匂いもする。
ああ……なんて夢心地。夜の静けさも相まって、視線を感じながらも今にも眠りに落ちそうだ。
エマの声、奇麗だな。
今日買い物について行って気づいたが、普段の言動はアレなくせに、エマはなんていうか、仕草と言うか立ち居振る舞いに品がある。
だからメイド服も、奇麗と言う以外に〝似合っている〟んだよな……
微睡に襲われたところで、エマの子守歌がピタリと止まった。
目を開けると、彼女は虚空を睨みつけているように見えた。
「エマ?」
なんだ、一体どうし……
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
突然そんなけたたましい音が聞こえたかと思うと、
「『聖皇騎士団』だ! 全員そこを動くな!」
バンッ! と勢いよく扉が開かれ、十人ほどの白い服に身を包んだ男たちが部屋に雪崩れ込んできた。
「なっ……」
突然のことで、言葉を失う俺。
男たちの中のリーダー格っぽい六十代くらいのじいさんは、そんな俺を……というより俺とエマを一瞥した後、視線だけで素早く室内を点検し、左にズレると恭しく頭を下げる。
「対象を発見いたしました」
ある意味見た目を裏切る、無駄にかっこいい声で言った。
すると、部下っぽい男たちが一斉に姿勢を正す。
その中央から、一人の人物が歩み出た。
それは、宝石のように輝く金髪を腰まで伸ばした少女だった。
身に纏っているのはやっぱり純白の服。ただ、彼女が来ているのは女性用なのか、白のスカートとニーソックスを穿いていた。
少女は、端的に言ってきれいだった。思わず、状況を忘れるほどに。
それに、めっっっっちゃ、スタイルがいい!!
エメラルドの瞳に白い肌。そのためか、唇は朱を引いたように赤い。身長はそれほど高くないが、ピンと伸びた背筋からは凛とした印象を受け、〝小さい〟と感じさせない一種の存在感があった。あと足も綺麗。ニーソ履いてるけど、脚線美を見れば分かる!
どうやら、こいつらのリーダーはこの少女らしい。
少女は、ゆっくりと唇を動かし妙に事務的な口調で言った。
「あなたたちを、強盗の容疑で逮捕します」
そんなわけで俺たちは拘束され、床に座らされているのだった。
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