第9話

 白服の連中は、証拠を押収するとかで、屋敷にあるものを片っ端から引っ張り出している。


 逮捕された俺たちは、このあとこいつらの本部に連れていかれるらしい。



 ………………………………マジか。


 いやいや、冤罪! 大冤罪だぞ、それ!



 ……いや、でもないな。この屋敷、奪い取ってたわ。強盗団から。


 あの自称強盗団、マジで強盗団だったんだな。


 だが、こいつの言う容疑ってのは、どうもそのことではないらしい。



「あなたたちには、この王都での連続強盗事件を起こした容疑があります。分かりますね?」


 分かりません。



「まったく、どこに潜んでいるのかと思っていたけれど、こんなところに住んでいたのね」


 一昨日からね。



「人々から奪ったお金でこんないい生活をしていただなんて……恥を知りなさい!」


 奪ってません。あくまでも合意です。



「人のモノを奪うのは犯罪よ! 子供でも分かることでしょう!」


 俺もそう思う。



 ……いや待て待て。思ってる場合じゃない。口に出して言わないと! ここは本当は俺たちの家じゃないって!


 それはそれで別の容疑が浮上するけど、あいつらの犯罪を押し付けられるよりはマシだ!



「団長」


 その前に、じいさんが少女に話しかけた。


「目撃情報と外見的特徴が一致しません。恐らく、こ奴らは共犯者でしょう」



「あら、そうなの」


 少女はキョトンとした顔をして、それから続ける。


「どうして強盗団なんかに協力してるの!? 奴らは今どこ!? 答えなさい!」


 またすぐに調子を取り戻す。


 なんか……このままじゃマジで共犯者にされそう。早いとこ事情を話したほうがよさそうだ。



「あの……」


「ユウ様」


 俺が口を開いたとき、それを牽制するようにエマが言った。



「大丈夫。何も心配いりません、ユウ様」


 エマがニコリと、俺に笑いかけてくる。そして、視線を前に移す。


 そこでは相変わらず白服たちが作業をしていた。




「――――」




 エマが何事か呟く。


 いままでの経験から言って、これはエマが魔法を使う前兆だ。


「! そこの娘、何をしている!?」


 白服のじいさんはそれに気付いたらしい。カッコいい声で鋭く激を飛ばしてくるが……



「!?」




 それは一瞬のことだ。


 一度瞬きをした間に、目の前の光景が変わっていた。


 ここは――



「屋敷から離れた裏路地です。ユウ様、ここまで来れば安心です」


 笑いかけてくるエマ。


 この展開前にも見たぞ。これは……



「転移魔法、か?」


「はい、流石はユウ様です」


 エマはニコリと笑って、俺の拘束を解いてくれた。



「私の転移魔法は、一度行った場所ならどこへでも行くことができます。どこか行きたいところがあったら、私に言ってくださいね。どこへでも、連れていって差し上げますから」


「お、おう」


 さらっと言ってるけど、エマってかなりチートだよな。それもだが、他にも気になることがある。



「あいつら、いったい何者なんだ?」


「『聖皇騎士団』という、『リーベディヒ』の治安維持を担当している連中です。どうやら、前々からあの強盗団を追っていたようですね。よりにもよって私たちを強盗と勘違いするなんて、失礼な連中です」


 ……気のせいか? 何かエマの声が、微妙に強張っているような……


 突然のことだったからな。流石のエマも内心動揺してるのかも。



 完全な勘違いってわけでもないけどな。言わないけど。


 つーか、その『騎士団』って名前、どこかで聞いたことがあると思ったら、換金所で誰かが言ってたな。



「私とユウ様の時間を邪魔するなんて、本来は万死に値する罪ですが……」


 とエマは甘い声を今度は低くして続ける。


「今はその前に、やらなくてはいけないことがあるようですね」


「やること?」


「はい」


 エマは短く答えると、それから曇りのない陰のある笑みを浮かべて言う。



「あのイカレた強盗団を全員捕らえて、『聖皇騎士団』に突き出してやるのです」


 確かに、あいつらを突き出せば、俺たちへの容疑は晴れるか。


「でも、どうやって探し出すんだ?」


 ああいう連中は身を隠すのに長けてそうだし、まずは手掛かりを探すところから始めないと。



「ご安心下さい。方法ならありますので」


 しかし、エマはニコリと笑う。



 ――私にいい考えがある、ということらしい。



「私の索敵魔法にかかれば、あんなゴミムシども、一分とかからず見つけてご覧に入れます」


 曰く、この世界に住む者は、全員その体に魔力を宿しているらしい。その魔力は一人一人〝形〟が違うらしく、エマは一度見ればその〝形〟を忘れない。そして魔力は残滓を残すから、それを追うのだそうだ。


 分かるような、分からないような感じだが、要するに「ヘンゼルとグレーテル」が落としたパンくずを追っていく感じだろうか?



「ユウ様。すぐに終わりますから、少々お待ちくださいね」


 エマは持っていた杖を離す。すると不思議なことに、杖は空中で直立し、そこを中心として複雑な文様を描いた魔法陣が浮かび上がった。



 陣の中にあるエマと杖を、紅黒い光が包み込む。でも、不思議と禍々しい感じはしない。それどころか、すごく幻想的で、紅黒い光に包まれたエマは精霊のようにも見える。つーか……


 エプロンだけでなく、スカートまで裾がひらひらと揺れているため、俺からはバッチリ下着が見えていた。今日は黒だ。



 それから、二、三分ほど経っただろうか。


 フッと、魔法陣と光は、同時に音もなく消えた。



「見つけた……」


 すこし顔を俯けて言うエマ。だが俺には見えた。エマの目が、狩人みたいな鋭い光を帯びているのを。



「如何でしょうユウ様? 見つかりましたっ!」


「あ、ああ。流石だよ。凄いなエマは」


 すると、エマは心底嬉しそうな顔になった。


 こういうとこ可愛いよなコイツ。それに美人の笑顔っていうのはどんな状況でも見惚れちまう。


 そんなことを考えていると、



「ユウ様。さあ、参りましょう。大丈夫です、ユウ様のことは、このエマが命に代えてもお守りいたします」


「え、俺も行くの?」


 どこか目立たないところで待ってようと思ったんだけど。



「当たり前ではありませんか」


 エマはやはり笑顔で言う。


「ユウ様は私の伴侶なのですから、いつ、どんな時も、いいえ……死ぬまで私の傍にいて下さらなくては……」


 ……正直、強盗団や騎士団より、こいつが一番危険な気がする。



 最近、殺されたことを皮切りにバイオレンスな出来事が多いから、できれば平和的にいきたいもんだ。

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