第15話 私はそんなに長く持たない

長嶺の妹の鈴花ちゃんの名札を探していて草むらで泥だらけになり、長嶺の家でシャワーを借りる事になった。

でもよく考えたらこれヤバくね?

だってこのシャワー室は長嶺が.....と煩悩が浮かぶ。

俺は赤面で首を振りながらシャワー室から出てからバスタオルを借りてから。


身体を拭いてリビングに入る。

それから俺はそこに待っている長嶺と鈴花ちゃんに向く。

長嶺と鈴花ちゃんは俺に柔和な顔を浮かべてリビングで待っていた。

俺は頭を下げる。

 

「すまん。待たせたな。あと有難うな。シャワー」


「全然大丈夫だよ。大歓迎だからね。ね?お母さん」


長嶺の母親という長嶺富子(ながみねとみこ)さんが顔を台所から出す。

オーケーサインを手でしながらニコニコしている。


若々しい顔立ちに、柔和な母性。

それから茶髪の地毛?に身長が高い。

そして俺に柔和な笑顔を見せる。

年齢は分からないが30代つっても通じそうだ。

俺はそんな富子さんに頭を下げる


「全然大丈夫よ。むしろ.....いすずちゃんが彼氏を連れてくるなんて!こんな喜ばしい事は無いわ!」


「ママ!違うって!もー!」


俺は苦笑い。

それから立ち上がって文句を言っている長嶺が俺に向いた。

そして、もし良かったら何か食べて行かない?、と赤くなりながら俺を見る。


これに対して鈴花ちゃんも、良いかも!、と笑顔を見せた。

富子さんは、やるわよ!、と能天気に手を挙げ.....いや。

俺何も言ってないんだが.....!?


「ちょ。俺は何も言って無いんだが。長嶺」


「え?食べない?」


「いや、だからそうも言ってない。考えさせてくれ」


「お兄ちゃん.....」


かなり残念な表情を浮かべる鈴花ちゃん。

いやそんな悲しそうな顔をしないでくれよ.....。

俺は額に手を添えながら鈴花を見る。

それから.....苦笑して見つめる。


「分かった。何か食べていくよ」


「お兄ちゃん本当に!?」


「そうこなくちゃ!矢吹君!」


みんな笑顔になる。

思えば。

こんなに明るい家庭を見るのは俺は久々の様な気がする。


まるで太陽がこの場所に有る様な。

母親が自殺したのを知ってから殻に.....閉じこもっていたから。

だから.....暖かい日を浴びるのが久々な気がした。


「矢吹君?」


「.....ああ。何でもない。御免な」


そして俺は、何か手伝える事は無いですか?、と聞きながら。

サンドイッチを作ってもらった。

それも.....長嶺特製の、だ。

料理上手だったんだな長嶺って。



「.....今日は有難うな。長嶺」


「ううん。こちらこそ。妹がお世話になったね」


「.....」


帰宅の為に玄関で靴を履く。

長居したら失礼だしな。

鈴花ちゃんは俺を見ながらニコニコしている。

俺は.....その姿に笑みを返す。

すると.....鈴花ちゃんが、お兄ちゃんしゃがんで、と言った。


「.....何だ?すずか.....」


そこまで言い掛けて頬にキスされた。

俺と長嶺は驚愕に見開く。

そして俺の手を握ってくる鈴花ちゃん。


それから、お兄ちゃん優しいから大好き、と言った。

俺は赤面しながら頬を触る。

長嶺が慌てる。


「鈴花!?何を.....」


「だってお姉ちゃんだってこうしたんでしょ?負けたくないから」


「.....!」


鈴花ちゃんは胸を張る。

まさかまさかの展開だった。

鈴花ちゃんは俺を好いている様な感じでモジモジする。

そして赤くなりながら笑顔を見せる。

おいおいマジかこれ。


「.....じゃあ鈴花はライバルだね」


「.....そうだね。お兄ちゃんの取り合い」


その言葉を聞きながら俺は苦笑い。

それからハッとして聞いた。

鈴花ちゃんって何歳なんだ?、と思いながら。

そして長嶺を見つめる。


「.....あの、長嶺。鈴花ちゃんって何歳なんだ?」


「.....鈴花は12歳だよ。小学六年生」


「だから恋をしても良いの!アハハ」


何かその。

メラメラと長嶺の背後から赤い炎で音がする。

背後では富子さんがニヤニヤしながら俺を見ていた。


何だかその.....先行きが不透明なんですけど。

困りましたねこれ.....。

怖いんだが.....。


「.....じゃあまあ.....とにかく帰るから」


「またね。矢吹さん」


「.....矢吹さんって!?鈴花!?」


「だって好きな人は名前で呼ぶのが一番でしょ!アハハ」


マジなカオス状態だった。

俺は顔を引き攣らせながら長嶺を見る。

意気込んでいた。

負けてたまるか、的な感じで、だ。


「.....じゃあ分かった。小虎君」


「.....おい。長嶺。下の名前になったぞ.....」


「良いでしょ。別に」


鈴花ちゃんはこれにムッとする。

争うなよ.....。

そしてそうハッキリ下の名前で呼ばれるとクソハズイんだが。

俺は苦笑いを浮かべながらマジにカオスだな、と思ってしまった。

それから俺は額に手を添えながら、じゃあな、と挨拶してそのまま玄関を開ける。


そうしていると富子さんが靴を履いてやって来た。

そして、ちょっと外出ても良いかな、とウインクする。

俺は?を浮かべながら言われるがまま外に出る。

目をパチクリする長嶺と鈴花ちゃんを置いて、だ。


「.....えっと、どうしたんですか?」


「.....私ね、実は.....ちょっと大病を患っているの。それで.....夫だけに話しているけどね.....そんなに長くないかもしれないのよね。寿命が」


「.....え.....」


まさかの言葉だった。

俺は言葉を聞いて愕然としながら富子さんを見る。

そういえばたまに咳き込んだりしていた.....様な気がする。


俺は青ざめる。

だが富子さんは、そんなに気を落とさないで。今直ぐに死ぬわけじゃ無いから、と満面の花咲く様な笑顔を見せた。

それから柔和になる。


「.....娘達が大人になっていく姿を見て嬉しかったよ。君を好きになっているのも、ね。君なら許す。.....それでお願いがあるの」


「.....お願いですか?」


「.....そう。.....その、何があっても娘達を守ってやって。お願い」


そして富子さんはウインクをまたした。

私が守れるのは何時までか分からないから、と少しだけ複雑な顔をする。

俺は、はい、と返事をした。

そして富子さんは、宜しい、と頷いて玄関を開ける。


「.....じゃあまたね。また来てね」


「あ、はい。またです」


それから玄関が閉まり。

俺は.....顎に手を添えてしまった。

何であんなに明るいのだろうか。

あんなに明るく出来るのだろうか。

そう考えずにはいられなかった.....。


まるで.....風の様に優しく吹くのに。

それなのに.....病に侵されて。

俺は.....空を見上げた。

そして.....唇を噛む。

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