第14話 一級フラグ建築士

熊のキーホルダーしかお小遣いをつぎ込む余裕が無かった。

でもそれだけの誕生日プレゼントだったが結は心の底から喜んでくれた。

俺はその事に笑みを浮かべて今に至る。


相変わらず結は.....その。

変態性が治って無かった。

寧ろ加速した変態になりつつあった。

今日は日曜日だが色々あって結の母親と俺の親父は出勤している。

その為、俺と結だけが家に居たのだが。


食材の買い出しに行って来ると外に出てから家に帰ってくると。

結は俺の部屋でとんでもない事をしていた。

何をしているかといえば。

簡単にいえば俺のパンツで俺の部屋のベッドで悶えていた。

マジな変態がする様に、だ。


「.....何しているんだあのクソ変態.....」


流石にこれはもう.....と思いながら俺は盛大に溜息を吐いた。

それから何も見なかったふりをしてドアを閉めて。

そのまま家から退避した。

そして俺は家を立ち止まって見上げる。


「.....部屋に入れないんだが.....」


俺は思いつつ歩き出す。

どうしたものか。

10分ぐらい有ったら終わるかなあれ。

わざわざ部屋に踏み込む勇気もないので。

しかし根性無しだな俺は本当に。


「.....」


そうしていると。

目の前に.....赤いポーチを持った女の子が地面を探っていた。

俺は?を浮かべて.....そのまま声を掛ける。

っていうか事案に思われたら大変だと思うのに。

止めときゃいいものを気になったので声を掛けてしまった。


「何をしているんだ」


「.....え?.....あ。.....え?」


「.....いや。お前さ草むらを見て何かを探していたろ」


「.....」


こくんと頷く小学生。

よく見たらクリッとした大きな目をした子役に間違えられそうな。

細い眉毛に穏やかな感じの顔。

そんな感じの黒髪の長髪のかなり可愛い小学生。


しかし何だかこの顔どっかで見た様な。

考えながらも首を振ってから、んじゃあ俺も探してやるよ、と腕まくりした。

そして地面にしゃがむ。

え?え!?、と驚愕する小学生。


「.....大切な物なんだろ。.....俺暇だしな」


「.....でも.....」


「.....良いから。探すぞ。で、何を落とした」


「.....名札」


ああ.....成程。

小学生だから大切だなそりゃ。

住所も書かれているかも知れない。

うちの義妹みたいだな。


俺の部屋で生徒手帳を落としたような、だ。

思いつつ俺は草むらを探す。

デジャヴだなこれ。


「お兄ちゃん有難う」


「.....気にするな。俺が好きでやっているだけだから」


「.....まるでお姉ちゃんみたい。優しいから」


「お前の姉ちゃんはこんな感じなのか」


うん、と頷いて笑顔を見せる女の子。

俺は、そうか、と笑みを浮かべてから探す。

しかし無い。

何処で落としたんだ?、と聞くと、ここらへん、と答えた。

俺はそこら辺を重点的に探す。


「どんな感じのやつだ?」


「.....えっとね。四角くて縦長で.....緑色」


「.....そいつは参ったな。色が緑だと尚の事分からないかも知れない」


「うーん.....」


と思って草むらに入ると。

何か蹴っ飛ばした。

俺は、ん?、と思いながら拾い上げると.....名札だった。


その名前は.....長嶺鈴花(ながみねすずか)と書かれている。

え!?長嶺!?

驚きながら長嶺という小学生を見る。

その小学生に名札を渡した。


「君、もしかしてお姉さんは長嶺五十鈴だったり?」


「.....え?お兄ちゃん知り合いなの?」


「いや。知り合いってか同級生だったんだ。昔。お前の姉ちゃんと」


「.....え!?」


そうしていると。

草むらをかき分けて誰か来た。

見ると.....長嶺が驚きながら俺を見ている。

目をパチクリしながら、だ。


「え?何で.....」


「よ.....よお。長嶺。何やってんだ?」


「それはこっちの台詞だよ。何をやっているの?私、名札探していたんだけど.....」


お姉ちゃん。

名札、お兄ちゃんが見つけてくれたよ。

と笑顔で長嶺に駆け寄る。

そうなの、と答える長嶺に俺は柔和になる。

お前この辺りに引っ越して来たのか?、と聞いた。


「うん。この前だけどね」


「.....そうなのか」


そうしていると長嶺の妹が俺に寄って来た。

そして俺の手のひらに飴をくれて。

そのまままた花咲く様な笑顔を見せた。

お兄ちゃん有難う、と言いながら、である。

俺は、うんや、と首を振る。


「.....でもその。.....えっと。泥だらけだね。矢吹君」


「気にすんな。俺は気にならない」


「.....それは駄目だよ。.....そうだ!家に来て。私の家」


「.....え?家.....ってお前の!?」


そうだよ。

シャワー浴びたら良いかも。

と俺に柔和な笑みを見せる長嶺。

俺は赤面しながら、いやそれは、と思うが。

長嶺の妹が俺の手を握って来た。


「来て来て!お兄ちゃん優しいから」


「.....しかし.....」


「大丈夫だよ。お父さんもお母さんもみんな自然だし。アハハ」


「.....分かった。お世話になる」


正直言って結の監視が不安だが。

ハッキリ言ってこれは仕方が無い.....。

断るの苦手だしな.....俺。

考えながら俺は長嶺に付いて行く事にした。

それから俺達は草むらを出る。


「お兄ちゃん優しいから好き」


「.....そうか。でも俺は名札を探しただけだ。優しさは関係無いだろ」


「.....そういうのが女子受けするんだよ。矢吹君」


「え?」


一級フラグ建築士だね。

と、アハハ、と笑う長嶺。

ちょっと待てフラグ建設って何だよ。

何もしてないじゃないか。

ただ単に名札を探しただけじゃないか。


「私もきっとそんな優しさに惚れたんだね」


「無茶苦茶な。俺はほぼほぼ何もしてない」


「いや。君は色々しているよ。アハハ」


「.....」


君は本当に.....優しいから。

と穏やかな表情を浮かべる長嶺。

俺は.....真っ赤に赤面する。

そして頬を掻いた。


「私も好きかな」


「.....え?」


「優しい人は私は好き」


「.....そうか」


うん、と俺の手を握る鈴花ちゃん。

これを俺は本気にしなかったが。

後々に大変な事になる。

それは.....まあ後の方の話になるが。

とにかく俺はこの時は冗談半分で捉えていた。


「この坂の上だよ。私の家」


「.....マジか。家って結構近いな」


「.....そうなの?アハハ。嬉しいな」


坂の上に確かに家が有る。

単独で建っている様な家だが.....木造で。

かなり良さげな立地に有る。

なんというか浸水とかもしなさそうだ。


「.....良い場所に家持ったな」


「.....お父さんが少しだけコミュニケーションが苦手だからね。だから近所付き合いを控えてあの場所に家が有るの」


「.....そうか。良いじゃないか」


そして俺はそのままその家の前に案内される。

木造の感じの自然体の家だ。

こんな木造でも.....冷えたり暖かくなったりするのだろうか。

俺は考えながら玄関を見る。

玄関も木造だ凄い。


「.....じゃあ改めてようこそ」


「ああ。失礼する」


「とはいってもお父さん居ないんだけどね」


「ん?お母さんは居るのか?」


お母さんは今日は家に居るよ。

流石に居なかったら家の中に君を入れれないかも。

防犯がー、ってお父さんが言うし。

初めて家に来るからね、と。

俺は苦笑い。


「.....だな。ハハハ。当たり前だな」


「.....でも私、君なら全然構わないけどね。初めてでも」


「.....え?.....いや、流石にそれは.....」


赤面で俺に向く長嶺。

いや、後で弁護士の問題になったら責任取れないし。

えっと、勘弁してくれ。


思いつつ苦笑いで居ると俺は家の中に案内された。

良い香りがする家の中だ。

和風の感じの、である。

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