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敵の正確な位置がつかめてない以上、音に集中しないと。だけど保管内にいるなら大体の予想はつけられる。チラッと覗いて場所の確認をしたいけど正確な位置を知られてないなら音を立てずじっとしていたい。それに相手が慎重になってくれればその分だけ時間が減っていくし。


『保管庫内で顔を出すのを待つDB選手だがそう長くは待ってられない。一方、なお選手は身を隠し詰め始めを狙っているのか?』

『ですが時間的にもDB選手は詰めないといけないですよ』

『しかし期せずしてあの師弟対決を再現するような配置となりました。あの時はDB選手がエイム力を見せつけましたが今回この1on1を制すのはどちらなのでしょう』


あっ、動き出した。いつピークする?どこから顔を出す?そんことを色々と考えてしまうが完璧な正解を導き出すのは無理だ。


『ピークしながら進行するDB選手。ここでなお選手が一瞬ピークし決め撃ちをするが銃弾がDB選手の体力を削ることはなかった。だがそれは撃ち返したDB選手の弾も同じ』


右?左?どっちから回ってくる?頭はフル回転させながらも足音に集中する。左か。いや、右だ。このまま遮蔽物を回る?だけど間に合わないかも。でも少し膨らんでそうだから。いやもう考えても分からないしアレにかけよう。


『依然警戒をしながら詰めるDB選手の照準はしゃがみ覗きを警戒中。なお選手はこのまま逃げきるか?それとも撃ち合うのか?1歩1歩近づくDB選手。おっと!ここでなお選手がボム左側からピーク!したかと思ったが一瞬で顔を引っ込める!だがDB選手は反応し残像に銃弾を浴びせたがその間になお選手が反対側から飛び出す!』


DBさんならあの一瞬でも反応してくるはず。相手頼みになってはしまうけどそれで釣って反対側から飛び出せば。数発の銃声を聞きながら遮蔽物から飛び出すとついさっき顔を出した方向を向くDBさん。その無防備な姿を逃すはずもなくボクは1秒でも早く弾を撃ち込んだ。直後、DBさんのキャラは倒れ画面には勝利を告げる文字が。


『なお選手がDB選手を倒し試合しゅーりょー!!』


その瞬間ボクの心の底から嬉しさやら何やら訳が分からないほどの喜びの感情が溢れ出す。同時にドーパミンとかエンドルフィンとか分からないけど脳内麻薬的な何かがまるで壊れた蛇口から出続ける水みたいに出てるんじゃないかってぐらい興奮が一気に湧き上がってきた。それに突き動かされるように急いでヘッドホンとイヤホンを外しながら立ち上がる。そしてどう発散していいかも分からない喜びと一緒に思わず隣で同じように立ち上がったジョンクさんと抱き合った。どっちも嬉しさによる興奮のせいで強めに抱きしめてたけどそんなこと気にせず集まった他のみんなとも嬉しさを、喜びを、興奮を共有した。もう自分が何を言ってるかもみんなが何を叫んでるかも分からなかったけど内側から溢れる感情のままに叫ぶ。それに加え1か所に集まったボクらは飛び跳ねたり隣の人と強めに肩を組んだりと兎に角動かずにはいられなかった。自分のことが精一杯で周りの状況が見えてなかったけど少し落ち着いてみると観客席でも建物が揺れんばかりの大興奮に包まれ拍手やら歓声やらが入り乱れている。ボクらと同等かそれ以上に興奮してるみたいだ。そして少し落ち着いたがまだまだ冷めない気持ちを抱えたままOFGと試合後の握手をする為に歩き出す。先頭はKnBeeさん。


「いやぁー。負けたよ。まさかあそこから巻き返されるなんてね」


次に、はーみんさん。


「優勝おめでとう」


猟犬さん。


「GG」


Silvaさん。


「この大会中に2回も負けるなんてね」


最後にDBさん。


「最後のはやられたよ」

「DBさんの反応があっての賭けみたいな作戦だったので」

「とりあえず優勝おめでとう」


でも最後飛び出してから撃つまでの間にDBさんのキャラが少し動き始めていたのを見た。つまりDBさんは反応し始めてたってこと。下手をすれば反応されてやられてたのかも。恐ろしすぎる。OFGと試合後の握手を交わすと彼らは舞台を下りボクらは舞台中央へ向かった。そしてみんなで優勝カップを空高く掲げる。自分でも満足した結果に対して大歓声と拍手を浴びるのは控えめに言って最高だ。今までこんなにも誰かに認められたことも無いし注目を浴びたこともない。いつも注目される人をどんな気分だろうって思いながら外から見てるだけだった。でもこんな気分だったんだ。達成感とか昂揚感とかとにかく最高としかいいようがない気分。まさか自分がこんな気分を味わえるなんて、自分がスポットライトを浴びる側になるなんて思いもしなかった。得意なこともない何もないボクがただひたむきに続けて、気が付いたらここに立ってた。努力は報われる。いや、努力してたら報われたって言った方が正しいのかも。兎に角、今言えることは声を大にして言いたいことは、最高の気分だってことだけ。そして歓声を浴びながら優勝カップを掲げ賞金パネルを受け取ったボクらの前にはマイクを片手に持った司会の人がやってきた。


「まずは優勝おめでとう。申し訳ないけど正直に言って、君らにこうやってインタビューするとは思ってなかったよ。みんなはどうか分からないが少なくとも私は、まさか君らが決勝まで上がってくるとはまさか優勝するとは思ってなかった。だけど良い意味でその予想を大きく裏切ってくれたよ」

「ありがとうございます。ボク自身もこの大会に参加した時はまさか優勝できるなんて考えてませんでした」

「なるほど。君らにとっても予想してなかったことだという訳か。さぁ、その決勝なんだけど最初は大きくリードされてしまったね。結果だけ見ればOFGが圧倒してたわけだがトラブルによる10分休憩でその流れが大きく変わった。やっぱりあの時間で気持ちを切り替えたりだとか作戦を変えたりしたのかな?」

「あの10分で気持ちは大きく変わりました。と言っても他のみんなはすぐに切り替えられててボクだけが折れちゃってただけなんですけど。それをみんなに支えてもらって戦うことができました」

「どうやらこの勝利にはチームの絆が大きく貢献したようだね。それとなお選手の最後の1on1見事だったよ」

「ありがとうございます」

「第1回ではこのマップのまさにあの場所でDB選手とrin選手が師弟対決をした訳だけどそれは知ってたかい?」

「もちろんです。試合中は意識してませんでしたが第1回の決勝戦OFG対桃太郎は目の前の観客席じゃないですけど会場で見てましたので。その対戦を見てヴィランを始めたのでボクにとっては想い出の試合です」

「なるほど。これは知らない所でまたドラマが生まれていたようだね。これを機にこれからも君らが活躍することを期待してるよ」

「期待に応えられるように頑張ります」

「ではVillain For Villain Japan cap vol.2前回王者を倒し見事優勝したのはsamurai wolf!今一度彼らに大きな拍手を!」


会場を包み込む拍手とそれに混じった歓声に見送られボクらは控え室に戻った。


「よっしゃぁぁ!!優勝だ!しかもあのOFGを倒して!」

「うっさ。元気有り余り過ぎでしょ。アタシは終わったって思ったら一気に疲れてきた」

「確かに疲れたけどやっぱりまだ嬉しいよね」

「でもまだちゃんとは実感が湧かないですよね。優勝したって」


まだ実感は出来ないけどまだ底からは興奮が溢れ出てくる。だけど少し疲れたといえばそうかもしれない。でも今はこの気持ちが一番強い。


「みんな!」


テーブルを囲んだ椅子に座ったビスモさん、カズ、アニさん、ジョンクさんの視線が椅子の前に立つボクへと向いた。


「最後まで戦えたもの優勝できたのも、こんなに本気で続けられたのも全部。...全部みんなのおかげだと思ってる。いや、みんなのおかげ。みんなとヴィランをしてきた時間はすっごい楽しかったしそのおかげで毎日が充実してた。大会に出てみたいっていう夢もOFGと対戦して勝ちたいっていう夢も優勝してみたいっていうもの全部叶ったしそれはきっとみんなのおかげなんだと思う。――本当にありがとう。みんなと出会えてよかったよ」


勝った瞬間は、優勝した瞬間は興奮で埋め尽くされてたけど底にはちゃんとみんなへの感謝の気持ちがあったし少し落ち着いてきてそれが顔を出した。まだ昂揚感で気分がいいからこのまま勢いで言ってしまおうって思ったけどやっぱり少し気恥ずかしいかも。


「なに?アンタヴィランもう止めるの?」

「え?いやそんなことはないですよ」

「そう。なんかそんな雰囲気出てたわよ」

「私もビックリしちゃった。もう止めちゃうのかと思ったよ」

「ヴィランは楽しいしこれからも続けるよ。むしろやる気出てるもん」

「でも僕もなお君たちと一緒にゲーム出来て楽しいよ」

「俺も!それに一足先に大学の友達ができたのはデカいしな」

「私もなお君やみんなに出会わなかったらまだ部屋に籠ってたと思うし」

「あれ?なんか始まったわよ」


するとビスモさんが声と共に指をさした。その指先には試合とかが見れるモニターが置いてありそこにはあの司会者とKnBee選手が映し出されていた。


『急にすまないねKnBee選手』

『いえ。全然大丈夫ですよ』

『決勝戦では惜しくも負けてしまったけど他の選手の様子はどうだい?』

『いつも通りですよ。今も中でふざけ合ってるんじゃないですか?』

『そういうところは相変わらずさすがだね。さて、今回の決勝は色々と大変だったよね。メンバーの事もそうだしトラブルもあって』

『そうですね。でもメンバーに関しては自己責任ですしトラブルに関しては仕方ないですからね』

『でもファンや観戦者の中にはそのせいで負けたと思う人も少なくないと思う。そこら辺はどう思うかな?』

『先程も言いましたがkakianさんとキマイラさんに関しては自己管理の問題なので結局こっちのミスですし、トラブルでできた休憩時間で流れが変わったのは事実ですがそこで流れを再び掴めなかった弱さがでただけです。それに急ではありますが一緒にプレイすることになった猟犬とSilvaさんを含めこっちは全員プロ。そう簡単に勝てるとは思えませんけどね』

『つまりsamurai wolfにはちゃんと実力があるってことだね』

『そういうことです。こっちがフルメンバーだったとしてもいい勝負をしてたと思いますよ。それとこれは終わってから思ったことなんですがSilvaさんは準決勝で彼らと戦ってるわけですから彼をメンバーにするのはちょっとまずかったかなって思いますね。結果負けちゃったんでアレですけど』

『なるほど。試合後なのに急なインタビューありがとう。これからもOFGの活躍に期待してるよ』

『ありがとうございます。samurai wolfのみなさん優勝おめでとうございます』


こうして改めてKnBeeさんの口から聞くとあのOFGに勝てたんだって実感が少し湧いてくる。


「いやー俺たちってほんとにOFGに勝ったんだな」

「まぁでもフルメンバーじゃないけどね」

「私もそこが嬉しいけど少し思う部分なんですよね」

「でもKnBeeさんも言ってたけど一応相手は全員プロだよ?」

「この勝ちはこの勝ちで嬉しいですけどやっぱり次はフルメンバーのOFGを倒したいですよね」

「んじゃ次はどの大会出ようか?」

「あっ!はい!そういうのも含めて明日祝勝会をしませんか?」

「いいわね。今日は疲れてるし」

「俺は焼肉がいいな!」

「じゃあ少し奮発してあそことかどうかな?」

...


たかがゲーム。そう言う人はいるけどボクにとってはそうじゃない。何の取柄もなければ友達とかもいなかったボクに色々なモノをくれた。真剣に取り組む楽しさ、最高の仲間、得意だって胸を張って言えること、そして何より楽しい時間。少なくともボクにとってゲームは娯楽以上の価値があるし大袈裟かもしれないけど人生を変えたと思う。そして何より自分の人生を語る上で欠かせない存在になった。そんなヴィランでのやりたいことはまだ沢山あるしいつかフルメンバーのOFGとも勝負したい。それと、これは浮かれてるだけかは分からないけど今回の勝ちでプロも案外頑張れば目指せるんじゃないかって思った。意外と本当の挑戦はこれからなのかもしれない。いずれこのメンバーで世界を目指したり。なんてそれはないか。

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儚くも濃くて深い 佐武ろく @satake_roku

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