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「この全部に共通すること、なお君なら分かるよね。プロチームだけど別で普通の仕事もしてて毎年負けていたCommutisが初めて、しかもその地域から初のWCV出場を決めた時の1回戦。大会で成績を残せずにいたK.A.Kが初めて決勝まで上がって当時2連覇していたOFGに挑んだ試合。今も当時も最高のヴィランプレイヤーとして名高いEnguLIN《エングリン》を1人残してメンバーを入れ替えた途端に負けが重なり始め、増えていく黒星に対してついにファンからも叩かれた出したGGが入れ替え戦まで落ちてしまいその年ノリに乗っていたGRIzzLyと当たった試合。どれも0対マッチポイントから大逆転劇を繰り広げた試合」
「でも彼らはプロだしプロになれる実力があった人達だもん。ボクとは違う」
「確かに違うね。私達はプロじゃない。それに彼らはどれだけ追い込まれても途中で諦めるようなことはしなかった。むしろ最後までまだ勝てるって信じてプレイしてたように見えたかな」
「だけど逆転できるなんて稀だよ。そのまま負けていった試合の方が圧倒的に多い」
「そうかもしれないけど、きっとそのほとんどが最後まで逆転を狙って戦ったと思うよ」
でも確かにプロリーグとかでも、どんなに負けてたとしても敗北が事実になる最後まで選手の目は死んでない。
「というかそもそも負けてもよくない?アタシ達がここまで来れた時点で既にすごい訳だしさ。相手はあのOFGなのよ?勝った方がスゴイけど負けたところで仕方ないと言えば仕方ないし」
「逆にあっちにはプロとしての意地があるから僕らより背負いモノが多そうだよね」
「もし俺らが勝ったらアンチが活発になりそうだよな」
「だからもっと楽しんで試合しようよ。なお君言ってたじゃん。OFGを倒したいって。あんなに楽しそうにさ。私にはハッキリとは分からないけど、あの時のなお君は勝ち負けよりもOFGとの試合を楽しみにしてたんじゃない?」
言われてみればそうかもしれない。一番好きなチームと大会の場で試合ができるなんて滅多にないから。しかもそれがプロと無名なら尚更だ。しかも偶然とはいえあのKnBeeさんと試合前に話しをすることも出来た。それもあって確かに試合が始まるまではあのOFGとだってワクワクしてたけど。いざ舞台に上がり会場の盛り上がりを肌で感じて、改めて大きな大会の決勝だって思って、期待が高い試合だって思ってたら無意識で変に気負ってしまってたのかも。それに相手がOFGってことで白熱した良い試合をしないといけないとか少しでも相手になるように頑張らないといけないって勝手に思ってしまってたのかもしれない。その所為で慎重という名目で消極的な選択を今考えればしていたのかも。改めて2マップを思い返してみても決して楽しかったとは言い難いし、ラウンドが進み負けが重なるごとに焦りが増してより消極的になってた。そのおかげでチャンスを何度も逃してしまってた気がする。
「そうだぜ。折角OFGとやれてんだからいつものランクとかクラン戦みたいに楽しくやろうぜ」
「それにアタシは負けて失うモノ以上に既に得てるモノの方が多いと思うけどね」
「そういえばこの前ランクで海外のプロフルパにマッチしたことあったよね」
大会の少し前、海外のプロゲーミングチームXDのフルパとマッチしたんだっけ。その時はボロボロにされたけど試合自体はとっても楽しかった。キルできなかったしやりたいこともさせてもらえなかったけど自分より強い人と戦う楽しさがあって内容とは裏腹に満足のできた試合。
「あれ手も足もでなくてストレートで負けたけど楽しかったっすよね」
そうだ。勝つ為には自分にできる最高のプレイをしないといけないし、最高のプレイをする為にはまずゲームを楽しまないと。一番大事で一番土台的な部分を忘れてしまってた。眉間に皺を寄せて勝手にダメな方に向かって...。
「みんなの言う通り勝手にプレッシャーを感じてもう無理だって決めつけて諦めて、1人でどんどん落ちて心折れて自滅してた。すみません」
「次のマップは気持ちを切り替えて頑張ろうね」
「全く、もっと自信持ちなさいよね。別に下手な訳じゃないんだから」
「とりあえず0:0だと思って頑張るしかないよね」
「ちなみに俺はまだ勝つ気満々だからな」
ダメになりそうな時に見捨てないで手を差し伸べてくれる。多分チームだから勝つ為には仕方なく手を伸ばすしかないとかじゃなく、みんなのは優しさなんだと思う。みんなと出会ってゲームがより楽しくなったし、本気でやってる分心が折れそうになることもあったけどみんながいたからここまでこれた。それにこんなに真剣に続けてこられた。なのにボクは1人で勝手に焦って落ち込んで諦めて。みんなに感謝してるなら諦めるより次のマップに備えて気持ちを切り替えるべきだったし今からでもそうするべきだ。ここまで一緒にやってきてくれたのと今回も含めて沢山支えてくれれた感謝に少しでも恩返しというか報いたいのなら、今ボクにできることは1つ。
「もう変に気負わないでいつも通りプレイします。負けて元々っていうわけじゃないですけどいけそうな場面はビビらず思い切って勝負して、気楽だけど慎重にやってせめて後悔が残らないように全力を出し切りましょう!――ってボクが言うのもアレですけど」
「まぁアタシ達は最初からそのつもりだけど?」
少し意地悪気味に言うビスモさんが心の中では本当にそう思ってないことを願いたいが少なくとも言っていることは事実だ。
「そうですよね。迷惑かけてすみません」
「何よ。そんな反応されたらアタシが嫌な奴みたいじゃない」
「まぁでもビスモってそういうところあるからね」
その言葉にビスモさんのパンチがアニさんの肩へ飛ぶ。それを見ながらいつもの和気藹々とした雰囲気がボクらを包み込んだ。するとドアがノックされスタッフの人が顔を覗かせる。
「お待たせしました。再開いたしますので舞台へお願いします」
「よーし!やるかぁ」
「さーて、これから1マップも落とさずに2マップ取らないといけないわね」
「絵にかいたような崖っぷちだよね」
カズ、ビスモさん、アニさんはそう言いながら立ち上がると控え室を出て行った。
「ジョンクさん」
ボクの声に彼らの後に続き部屋を出ようとするジョンクさんが足を止め振り返る。
「ん?なに?」
「ありがとう。おかげでちゃんとOFGとの貴重な試合を楽しめそうだよ」
「ううん。私もなお君に助けられたから。こうしてみんなに実際会って、こうしてみんなとオフラインに出られてるのはなお君のおかげ。なお君は私の人生を変えてくれた。私こそありがとう」
「そんな大袈裟だよ。ドアを開けたのはビスモさんだし結局どうするかはジョンクさん次第だからボクは何もしてない」
「そんなことないよ。それにそんなこと言ったらもう一度立ち上がって戦うかどうかだって結局はなお君次第でしょ?」
「それもそうだけど」
「それになお君言ってたじゃん。私達はチームだって。1人が立ち止まったらみんなで手を引いて一緒に歩き出す。みんなで力を合わせたからここまで勝ち上がれたんだもん最後まで一緒に戦おうよ」
「ありあがとう」
「何してんの?早く行くわよ」
そして気持ちを切り替え気合を入れ直したボクは決勝へと戻って行った。
『皆様、お待たせしました。Japan cup決勝戦を再開したと思います。現在2:0とOGRES FACE GAMEINGが大きくリードした状態で王手をかけておりそれをsamurai wolfが追う形になっています。そんな中、第3マップは自動生成。このままOGRES FACE GAMEINGが逃げ切るのか?それともsamurai wolfが喰らい付くのか?一刻も早くこの闘いを見たいという気持ちは分かりますが運命の第3マップは10分の作戦タイムが設けられのでその間に、と言っても先程も予期せぬ小休憩がありましたがお手洗いや水分補給をお済ませください。屋台なども沢山ありますのでそちらもこの間に是非どうぞ』
大会の自動生成マップではこの10分間でどれだけマップを把握し作戦を立てられるかが重要だ。ボクらはチーム別でマップ内を歩けるからそれを利用したり図面上に色々書いたりしながら作戦を立てた。大会を観戦してても思うけど10分はあっという間。
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