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何とか勝つことのできたボクらはこれで決勝進出が決まった。とりあずホッと胸を撫で下ろしながら控え室に戻る。


「なお!最後のナイス過ぎ!」

「よく分かったわね」

「音聞こえてた?」

「色々考えてボクだったらあそこで待つかなって思って。ただの勘です」

「あの状況でちゃんと考えられるのすごいよ!私だったら見つけたら撃つぐらいしか頭回らなそうだもん」

「ありがとう」


自分でも本当に良かったと思ってるけど何より一歩千金のkei選手が同じ考えだったことが嬉しい。プロの考えが必ずしも正解ってわけじゃないけど、なんだか自分の考えは間違ってなかったんだって思えてくる。そしてボクらはお昼に食べる物などを買い控え室で次のOFGとK.A.Kを観戦することにした。これで勝った方が決勝での対戦相手。ボクらの試合終了から30分ちょっとして準決勝第二試合は始まった。試合が始まってすぐにボクはOFGに違和感を覚える。


「あれ?OFGメンバー違くないですか?」

「キマイラ選手がいないね」

「代わりに猟犬選手が入ってるけどどしたんだろ」


昨日はいたキマイラ選手がいない。違和感の正体はそれだった。だけどそんなことは関係なく試合はラウンドを重ねていった。ネットではOFGのライバルとも称されるK.A.Kとの戦いは物凄い。ちなみにOFGのKnBee選手とK.A.Kのzkt選手は大学の先輩後輩だとか。


「うわぁー。今の強すぎでしょ。今日もDB選手キレッキレね」

「正直、勝てる気はしないですよね」

「でもどうせやるなら調子が良い時がいいかな。強いチームとやりたいですし」


それは無意識に口から出た言葉だった。


「俺も折角の決勝なんだから1番つえーチームとやりたいかな」

「アンタらそーゆーとこあるわよね」

「私もそれ思いました。結構アニメとかの戦闘狂みたいなところありますよね」

「向上心ってやつでいいと思うよ。僕は」


強いチームと戦いたい。そんなことを言う自分自身に実は自分でも驚いていた。前ならそんな相手勝ってこないって思ってたかも。それからもOFGとK.A.K激戦は続きついに最終ラウンドへ突入した。本音を言えば色々と思い入れのあるOFGに勝ってほしいけどやっぱりこの日、強い方に上がってきてほしい。上がってきてほしいって言うのはなんだか上から目線か。でもこんな機会はそうないしどっちが上がってきても胸を借りる気持ちで全力を出したいかな。


『準決勝第二試合勝者はOFG!これで決勝はsamurai wolf対OFGのカードに決定しました!最強の王者が2連覇を果たすのか。それともダークホースが王座を奪い取るのか。非常に楽しみです』


勝者はOFG。あの日ボクを魅了してくれたチームとの対戦。勝敗どうこうの前にシンプルに嬉しくて楽しみだ。


「決勝はOFGとねー。まぁどっちがきてもキツイのは変らないからいいか」

「私まさかあのOFGと試合出来るって私あんまり実感わかないなぁ」

「僕はまだ決勝まで来たとすら実感できてないよ」

「決勝でOFGと言えばOFG対桃太郎思い出すよなー」


カズの言葉を聞いてボクの頭にはあの試合の映像が流れる。


「勝てますかね?」

「さぁ?どうだろうね」

「いや勝てるでしょ!俺らもここまで来たんだから」

「でも勝ちたいよね」

「私たちにできるのはいいプレイをすること以外なさそうですしそれで出た結果なら素直に受け入れます」


決勝の相手はOFG。今まで戦ったどの相手より強い相手。正直、もう一回Soや一歩千金と戦って勝てるかと聞かれれば難しいと思う。勝てたのはみんなの実力も一応あったと思うけど少なからず運も絡んでたはず。その運を味方に付けても勝てるかは分からない。だけど勝ちたいけど、それ以前に国内最強のチームとの試合を楽しみたいかな。


「楽しみましょう」

「そりゃ楽しむに決まってるだろ」

「そして勝とうね」

「でもまずは決勝まで1時間空くしその時間をどうするかね」

「お昼も先に食べちゃってお腹もすいてないからね」


準決勝から決勝まで1時間の空きがありその時間をどう潰すかが直近の問題のようだ。だが幸いにもこの会場には暇を潰すには困らないほどのブースがある。とりあえず準備を始める試合開始30分前までは各々適当に時間を潰すことになり、ボクはジョンクさんとカズと一緒に会場のブースを回っていた。すると、20分程経ったぐらいに、


『決勝出場チームsamurai wolfの代表者は至急大会本部までお越しください』


会場内にアナウンスが流れた。


「あれ?何だろう?」

「至急って言ってるし行って来いよ」

「うん。行ってくる」

「じゃーなー」

「いってらっしゃーい」


2人に見送られながら大会本部に向かうとそこにはKnBeeさんがいた。


「samurai wolfの代表者の方ですか?」

「はい。なおです」

「突然お呼びして申し訳ありません。実はOFGの方に問題が起きてしまったようで」

「実はkakianさんが食あたりしてしまってプレイできる状況じゃなくて。もしよければ他のチームから彼と同じレベルの選手を緊急でお借りしたいんですけどいいですかね?」

「はい。全然いいですよ」


断れば不戦勝?そんなのは嫌だ。それに多分、みんなもダメとは言わないだろう。


「ありがとう。それじゃあ。んー。誰が良いだろう」


KnBeeさんはその場で考え始めた。


「一歩千金のSilvaさんとかかな。エイムは劣るけど現地守りならkakianと同じぐらい上手いから。どうかな?」

「全然大丈夫です」

「ではそれで決定したいと思いますので一応こちらに確認のサインをお願いします」


ボクとKnBeeさんがサインをするとそれを運営の人が確認する。


「はい。ではお手数ですがKnBee選手は少々お待ちください一歩千金のSilva選手にも了承を得ますので」

「分かりました」

「なお選手の方は大丈夫です。ご協力ありがとうございました」


それから控え室に帰ると既にカズとジョンクさんを含めみんな集合していた。ボクは大会本部でのことをみんなに話す。


「いいんじゃない。別に」

「それってもし断ったら試合できなくなるってことだよね?」

「メンバーが足りなくなるわけですからそうだと思いますよ」

「じゃあ断ってたら不戦勝じゃん」

「すっごいブーイングの嵐を浴びそうですよね」

「ていうかこのまま不戦勝で優勝しても嬉しくないでしょ」

「確かに俺も戦って気持ちよく優勝してーな」


とりあず決勝はOFGと試合ができそうで良かった。


「そろそろ準備時間よね」

「そろそろスタッフの人が呼びに来るんじゃないかな?」

「ボク飲み物買ってくるのでもし呼びに来たら先に行っててくださいね」

「おけー」


選手控え室の近くにある自販機に真っすぐ向かうとそこには先客がいた。それはKnBeeさん。足音に気が付いたのかボタンを押した後にボクの方を顔を向けた。


「お茶買いに来た?」

「え?まぁ、はい」


返事を聞いたKnBeeさんは既に落ちて来ていたお茶を取り出しボクに投げた。


「ぼくの奢り」

「――ありがとう、ございます」

「突然のことで迷惑かけたお詫びだよ」


ボクにお茶を投げたKnBeeさんはもう1本自分の分のためにお金を入れ始めた。


「いえ。そんな」

「Soに一歩千金。申し訳ないけどぼくを含めて多くの人が君らがここまで勝ち上がるとは思ってなかったと思う」


それは当然だろう。ボクらだけが唯一の無名なんだから。


「でも上がってきた。もちろん試合を見てたけどその素質は十分にあると思うよ。前回優勝チームの一員としてそう思う」

「ありがとうございます。OFG対桃太郎。ボクも会場で見てました。その試合を見てヴィランを始めたんです。それ以来OFGの皆さんの動画も試合も見てます。多分あの試合を見て無ければ、あれほどスゴイ試合が無かったらボクはここにいないかもしれません。そこは勝手ですが感謝してます。ありがとうございます」

「あの試合はとっても貴重な体験だったよ。あれほどの強敵は中々いないからね。――でもそうか。ぼくらが君という選手を生み出したのか。嬉しいね」


お茶を自販機から取り出したKnBeeさんはボクの方に歩き出し真横で立ち止まった。


「じゃあメンバーは少し違うけど君というプレイヤーの生みの親として前大会王者として、そしてファンである君の為にも。全力で相手させてもらうよ。君らを無名とは思わない。プロを相手にするように今のOFGの持てる全ての力で潰させてもらうよ。あの素晴らしい決勝の再現、いや、アレを越える試合をしよう」


KnBeeさんが行ってしまった後も少しその場に立ち尽くしてしまったボクはどんな表情をしてたのだろうか?多分、笑みが零れてたんじゃないかと思う。この時、初めてあのOFGと戦うんだって実感がちゃんと湧いてきた。そして控え室に戻るとみんなは居なくてマウスとキーボードを持ち決勝の地へ向かった。

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