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「これもう時間ないから殲滅しよ」

「私外から回るんでちょっと待ってください」

「カズ。その間に中央階段行こう」


1ラウンドを取り返し1ラウンドを取られ2ラウンドを取り返し1ラウンドを取られ。厳しい戦いだったけどボクたちも負けてないことは試合が語っていた。


「1ダウンでAポ小部屋に1人」

「それカバーしました」

「Bに1人とロッカー1人。もう1人は分からないかな」

「ロッカーダウンです」

「Bもキルしました」

「あっ!ラスト謎部屋。多分ロー」

「1on1。ラスト15秒ね」


1秒1秒とタイマーの時間が経過していく中、ボクは警戒しながら謎部屋に詰めていく。投げ物があれば。そう思うけど無いから自力で勝負するしかない。幸い出入口は一つしかないからそこに集中すればいいだけ。って言葉で言えば簡単だけど飛び出しに反応できるかが問題。一応勘で撃ってみるがそう上手くはいかない。このまま謎部屋まで行けたら室内を決め撃ちしよう。なんて考えているタイミングで敵が飛び出してきた。ボクは咄嗟にしゃがみを入れながら横移動しつつ撃ち合う。こっちも被弾はしたがジョンクさんが削ってたおかげで撃ち勝つことができた。


「ナイス!」

「ないす!」

「ないすーなお!」

「さすがなお君!」

「ふぅー。勝てて良かったぁ」


1on1の緊張から解放され体の力が抜ける。


『gg』


最後の1on1勝てたのもそうだけど何より試合に勝てたことでホッとして力が抜けたのかも。でもとりあえずDay1突破のオフライン出場が決定した。疲れとかもあるけど今はその喜びで一杯。


『ohurain ganbatte ouensiterukara(オフライン頑張って応援してるから)』


するとチャットに流れる『gg』の文字の後に相手が一言声援をくれた。その言葉は嬉しかったけど同時に、勝ったからには彼らに恥じないような戦いをしないとっていうプレッシャーも感じた。でもこれは良いプレッシャーだと思う。それにこれは勝った側の責任なのかもしれない。こんなチームに負けたとか思われないように。いい試合をしないと。


『arigatougozaimasu gannbarimasu(ありがとうございます。頑張ります)』


そんな思いを秘かに込めながらチャットで返事をする。


「やったー!勝てましたね!」

「強いのは分かってたけどやっぱり強かったわ」

「でもでもそんなNOVAに勝った俺らも中々じゃないっすか?」

「苦戦はしたけどマップ的には何気にストレートで勝ってるからね」

「でも内容的には負けててもおかしくない感じでしたよね。些細な要因で結果は変ってそうです」

「そうだよね。勝てたけど今までできてたことが強敵相手になるとできてない部分もあったからそこは反省しないと」

「まだ終わったわけじゃないし。むしろこれから本番でしょ」

「次は準々決勝ですね」

「オフラインかー。楽しみ過ぎる!」


まだ実感が湧かないけど明日はオフラインで大会なんだ。目を閉じれば、いや、閉じなくても初めて見たヴィランの大会を思い出す。観客の熱狂、試合を盛り上げる実況解説、選手たちのリアルな反応。全てが最高だった。その舞台にボクも立てる。そう思うとついついニヤケてしまうけど同時に緊張が心臓を急かす。


「そう言えばもう出場するチームって出そろってるのか?」

「今、トーナメント表見てるんだけど...。決まってるよ」

「どこなの?」

「えーっと。OFG対スノーフレーク、K.A.K対sky birds、一歩千金対T5、そしてSo《エスオー》対私達ですね」


それともうひとつ。今まで画面向こうの存在だった人たちを見れるってことも楽しみで仕方ない。しかもちゃんと勝てればだけどそのうちの3チームとは実際に戦える。どれだけやれるのか。もちろん勝つ気でやるけど強敵だらけの中でどこまで上がれるかの挑戦だ。こんな積極的に挑戦することも挑戦することがこんなに楽しいのも始めて。他のチームとも対戦して勝ちたいけど最終目的はやっぱりOFG。ボクの始まりにして憧れのチーム。彼らと戦うためには決勝にいかないと。あっちは上がって来ると思うし。


「とりあえず今日は疲れたし終わりましょ」


ビスモさんはあくびをしながらそう言っていてよほど疲れてるのは一目瞭然だった。


「そうですね。私も疲れちゃいました」

「じゃあ今日はもう解散して明日に備えましょう」

「明日は頑張りましょうね」

「目指すは優勝だな!」

「そうだね」

「これだけの面子で優勝したら私達すごくないですか?」

「まぐれでもすごいと思うよ」

「その為にアタシ達に必要なのは睡眠ね」

「終わりましょうか」


思った以上に疲れがたまってたのかベッドに入ったらすぐに睡魔に連れ去られた。翌日。ボクらは大会会場で合流した。


「おはよー」

「カズおっそい」

「寝坊しちゃって。でも秒で準備したんで10分しか遅れて無いっすよ」

「こういう日は遅刻するんじゃないわよ」

「すいませーん」

「でも相変わらずスゴイ賑わいですよね。前は生放送で見てただけだけどほんとスゴイ」


ジョンクさんは目を輝かせて辺りを見回していた。でもその気持ちはよくわかるボクも前来た時はこのお祭り騒ぎに驚いたから。しかも今回は前より盛り上がってるし。


「なんかTGSみたいだよな。行ったことないけど」

「それ僕も思ったよ。それに迫るぐらいの盛り上がりはあるよね」

「で?これかどうするの?」

「えーっと。一応今らから各チームの代表が集まってチェックインしたり説明受けたりするんですけど。誰が行きます?」


その問いかけに全員の視線がボクへ向けられた。


「ボク?ですか?」

「前から大会のこと色々とやってるからね」

「それに今回も代表はなおになってるんだろ?」

「まぁ一応」

「ならなお君が行った方が分かり易いと思うよ」

「私は緊張して話聞き逃しちゃいそう」

「別にいいですけど。それじゃあ行ってきますね」

「よろしくなー」

「終わったら合流しましょ」

「それまで僕らは適当にぶらぶらしておくから」

「なお君お願いね」


そしてボクは1人みんなと別れて運営から指示された集合場所に向かった。


「ここか」


もう一度スマホに目を落とし確認をしてからドアを開く。部屋の中には少し大きな机があってその端に腕組みをした眼鏡の男性が1人静かに座っていた。物静かそうなその男性をボクは知ってる。


『一歩千金のクラマス。アナグマさんだ』

「おはようございます。出場チームの方でしょうか?」


そんなことを考えていると横からスタッフの人が話しかけてきた。


「あっ。はい」

「チーム名をお願いします」

「samurai wolfです」

「ではメンバー全員が揃っていればこちらにサインをください」


スタッフの人は言葉と一緒に机にあるタブレットを手で指した。その指示通りにボクはペンを手に取ってサインをする。


「――はい。大丈夫ですので他の方が揃うまでもうしばらくお待ち下さい」

「わかりました」


サインを確認したスタッフの言葉に従ってアナグマさんとは反対側の端に座った。

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