15

初めてジョンクさんの声を聞いた。それは突然のボイスチャットだった。正直言って驚いたけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。何で今までチャットで会話してたかは分からないけど。いや何となくは分かるか。でも今は何も言わず自然と受け入れよう。


「もちろん」

「でも...どうやって?」


勢いで言っちゃったのは否めずいざ、具体的なことを訊かれると考えてしまう。


「んー。――あっ!そうだ!オフライン出られなくなったから代わりにオフ会しようよ。みんなで迎えにいくから。それかジョンクさんの部屋でやってもいいね」


思い付きだったけどよくよく考えれば結構いい案だと思う。


「まずは人と会うってことになれてから。次はみんなで一緒に外に出ようよ。――って偉そうに言ってるけどボクも人と実際に会ったり話すってことに慣れないと」

「私の...へや?」

「そう。やっぱりいきなり人と会うと外に出るを一気にやるのはアレかなと思ったから、まずはジョンクさんの慣れた部屋で会った方がいいかなと思って。そしてみんなと慣れたら一緒に外へ遊びにいくとか」

「急に..言われても...。ちょっと...考える...」

「うん。いつまでも待ってるから。ゆっくり考えていいよ」

「そ、それと。あ、あの。急に..ボイスチャットにして。ごめんなさい」

「ううん。正直少し驚いたけど全然大丈夫だよ」

「じゃ、じゃあ。考えて....みる。から。今日は...」

「うん。ボクは君の味方だから。これからも。ずっと」

「あ、ありが...とう」

「じゃあゆっくり考えてね」

「う...ん」

「バイバイ」

「バイ...バイ」


終始ぎこちなかったジョンクさんは部屋を退出した。


「ジョンクさんって女の子だったんだ。それに年下って。ボクのイメージって全く当てにならないな」


今まで持っていたジョンクさんのイメージが全部外れてたことを知ったボクはそう呟きながらヘッドホンを外した。それから椅子に深くもたれ他のみんなに関しても一度大きく外れたイメージをしてみる。だが初手のカズで既に笑ってしまい止めた。そして時計が22時ぐらいを指した頃、Gチャットにはいつものメンバーが集まっていた。そこにジョンクさんの姿は無かったが4人で3~4時間ぐらいランクを回す。成績は6:4で全体的には負けちゃって最後はだらだらと話をしてた。すると話題はジョンクさんのことになる。


「そういえばジョンクさんから返信きた?」

「俺は来てない」

「ボクもきてはないですけど」


一瞬、ジョンクさんとの会話を話すかを迷った。けどボクはみんなでジョンクさんに手を貸すって言っちゃってたからいずれにしろみんなには話すことになるはず。だったら今、全部じゃなくて要点だけでも伝えておくべきだと思う。


「けど、何よ?」

「今日の夕方にソロでやってたらたまたまジョンクさんとマッチしんたですよ。それでそのマッチの後にメッセージ送って一緒にプレイしました」

「良かった。このゲームは止めてなかったんだ」


アニさんはボクと同じところでホッとしていた。


「何時間か回した後と実はみんなで集まる少し前まで話をしてたんですよね」

「え!マジ!?ジョンクさん何て言ってた?」


一番迷ったのは彼女が引きこもりであることを伝えるか、問題を抱えてるって説明するか。だけどここはやっぱり本人から伝えていいかの許可が必要だと思って後者にして説明した。


「そうだったんだ」

「そんな感じは少ししてたからな」

「アンタはその問題っていうの知ってるの?」

「はい。ジョンクさんが教えてくれました」

「じゃあ、ちょっと今訊いてよ。メッセージ送って」

「え?何をですか?」

「だから具体的な内容をアタシ達に言ってもいいかをジョンクに訊いてってこと」


まぁ、確かにその方が早いしちゃんと説明できるか。


「そうですね。分かりました」


ビスモさんの言う通りボクはすぐにジョンクさんにメッセージを送った。返信は5分経たないぐらいで返ってきた。内容は一言『いいよ』。


「返信来ました。良いそうなので最初から話しますね」


そしてもう一度。次はボクが知ってることを全て包み隠さず話した。その間、みんな黙って聴いてくれてて顔を見てなくても真剣さが伝わってきた。『あぁやっぱりこの人達は良い人なんだ』って。『この人達となら力を貸せそう』って。話しながら思わせてくれるみんなと出会えたことはボクの人生でも指折りに入るほど幸運な事なのかもしれない。


「なるほどね」

「でもそういうのって僕らだけで解決できるのかな?」

「別に事件を解決しようって訳じゃないんだからできないことはないでしょ」

「俺もそういうのよくわかんないし本当に大丈夫かな?もし下手打って逆に悪化させたりしたらトラウマレベルで忘れられない出来事になるかも」

「ボクも詳しい訳じゃないし何なら全く分からないけど。今のジョンクさんに必要なのは出たいっていう強い気持ちと手を引いてくれる人なんじゃないかなって思う」

「それをアタシ達でやろうってこと?」

「はい」

「ビスモは嫌なの?」

「別に嫌じゃないけど。そもそもジョンクがどこに住んでるか知ってるの?アタシ達だってバラバラかもしれないし、集まるの自体大変かもしれないわよ」


それについては全く考えてなかった。確かにビスモさんの言う通りジョンクさんがどこに住んでるかは分からないしみんながどこに住んでるかも分からない。そうなると飛行機を使う必要があるかもしれなくて学生のボクとカズは親に頼むしかない。それにビスモさんとアニさんは仕事のこともあって。あれ?意外と問題は山積み?


「とりあえずみんなはどこに住んでるんすか?俺は東京」

「あっ!僕も東京だよ。ちなみにビスモも東京」


と思ったけどやっぱり案外、問題は片手に収まるぐらいなのかもしれない。


「ボクも東京です」

「なんだよ!みんな一緒じゃん」

「えぇー!もしかして意外と街ですれ違ってたりするかもね」

「で?肝心のジョンクは?」

「えーっと。訊いてみますね」


ボクはもう一度ジョンクさんへのメッセージを開いた。


「これで沖縄とかだったらみんなで旅行じゃん」

「季節的にも海じゃない?」

「アンタら何しにいくつもりよ」

「その時はジョンクさんも一緒にってことっすよー」

「そういえば、ビスモと映画とかご飯とかは行ったことあるけど海とかプールってないよね?」

「そもそも行きたくないし」

「ビスモさんって泳げるんすか?」

「アタシ中高の体育5だから」

....


返信が来るまでの間、そんな話でみんなは盛り上がっていた。今回は結構すぐに返信が来た。


「ジョンクさんも東京に住んでるみたいですよ」

「全員東京じゃん!」

「これで移動面に関しては問題ないね」

「あとは本人次第ってことか」

「そうですね。本人の気持ちが整うまで慌てず待ちたいと思います」


それでこの日は解散した。改めて今日のことを思い返してみてもみんな快く賛同してくれてよかった。でももしボクらが途中で諦めてジョンクさんを見捨てたら彼女はもう出ることも人を信用することもなくなるのかもしれない。そう考えると簡単にその場の気持ちで言っていい言葉だったのか、簡単にしていい約束だったのかって思う。


「いや、もしボク1人になっても最後までジョンクさんを見捨てなければいいか」


みんなが見捨てるとも思えないけどボクだけは最後まで言葉の責任を持つって自分自身に誓おう。今まで友達がいなかったからかもしれないけどボクにとってみんなとの繋がりはすごく大事なものだからこれからもその繋がりは大切にしたい。みんなにとってボクとの繋がりがどんなものかは分からないけど。少なくともボクにとっては大切なものだ。そんな相手が困ってるなら最後まで力になりたいし、手助けしたい。最後まで。

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