13

数日後の休日。15時ぐらいインしたが誰もやってなくて仕方なく久しぶりにソロランクを回していた。


「おっ!この人さっきから結構、キルしてるし上手いなぁ」


そう呟きながらスコアボードの一番上にある名前をクリック。表示されたアイコンと名前を見ると何だか見覚えがある気がした。だけど思い出せない。


「あれー?気のせいかな?」


引っかかるものはあるが思い出せないまま最後のラウンドが始まった。


「あー挟まれた。やっぱりソロは情報少ないし難しいな」


割と序盤でやられてしまいそれからはあのトップの人を見ていた。気になるのもあるが何よりプレイを見て勉強したいというのが大きかった。


「へぇーそこはそんなに早く退くんだ。――わっ!つよっ!今のはただのゴリ押しエイムだけど強かったなぁ」


そして最終ラウンドもこの人のおかげで勝ち、試合にも勝利。完全にこの人のキャリー【チームを勝ちに導く】だった。そして最後にスコアボートを見ていると

電球が付くみたいにさっきまでの引っかかりが解消された。


「あっ!このIDって。ジョンクさんの本垢だ」


確かカズとアニさんと3人でランクしてる時に相手にこのIDがいてアニさんがジョンクさんの本垢って教えてくれたんだっけ。だから見覚えがったのか。


「でもよかった。ジョンクさんこのゲームは続けてたんだ」


しばらく見てなかったジョンクさんとこういう形でだけどまた会えて嬉しかった。あのまま変なわだかまりを残したままなうえにこのゲームも辞めてしまうっていうのが一番嫌だったから。少しホッとしたような嬉しいような気持になっているとあることを思いついた。


「あっ。そうだ。折角だしメッセージ送ってみよう」


フレンド以外からのメッセージを拒否してないといいけど。そう願いながらジョンクさんへのメッセージを開いてみる。


「良かった。送れはするみたい。あとは返事くれるかか」

『ボク今ソロなんですけどもしよかったら一緒にプレイしませんか?』

「これでよしっと。送信」


送信したらあとは待つだけ。その間、射撃場でエイム練習をしていた。すると少ししてからGチャットにいつものジョンクさんのIDが入室。


「おっ!来てくれた。お久しぶりです。今招待送りますね」

『ok』


お互い特に何かをいう訳でもなくただいつも通りランクを回した。折角だし色々と教わりながら。2~3時間ぐらい回したと思うけど全体的にはキルも取れてたし内容も悪くなかった。


「いやぁー楽しかった。やっぱり誰かとやる方が楽しいな。でも今日久しぶりにソロをやってて思ったんですけどジョンクさんよくソロだけであんなにランクを上げられますね」

『takusan yatterukara(沢山やってるから)』

「ボクもソロである程度まで行けるように頑張ろう。ソロで学べることもありますもんね」

『un(うん)』

「あっ、そうだ。まだ開けてないガチャがあったんだ」


それを思い出し1つだけ残ったガチャを開けるが出てきたのはなんてことないモノ。ボク的にはハズレかな。


『konomae no kotodakedo(この前のことだけど)』

「この前?あぁ、大会ですか?」

『un(うん)』

『asokomade kateruto omowanakute gomen(あそこまで勝てると思わなくてごめん)』

「全然気にしてませんよ。ボクもみんなも。それに正直に言うとボクもあそこまで勝ち上がれるって思ってませんでした」

『saisho ni ittokubeki datta ohurain ha derarenai tte(最初に言っとくべきだったオフラインは出られないって)』


出られない。前もだけどこの言葉が少し気になっていた。


「出られないってことは本当は出たいってことですか?何か理由があって無理ってこと?そう言う訳じゃなくても全然いいんですけど少し気になっちゃって...」


ジョンクさんの返事はすぐにはこなくてその間、ボクは聞かない方がよかったかな?と思っていた。


『derareru nara detakatta(出られるなら出たかった)』


その返事を読んで頭に思い浮かんだ言葉をすぐには口に出さず一度考えてから声にした。


「もし。本当に嫌だったらいいんですけど。その理由って聞いてもいいですか?」


返ってくるかは半々ぐらいだった。だけどもしその理由がボクにでも解決できるようなことなら力になりたい。そしてまた5人でランクとかクラン戦とかしたいって思った。だけど同時にもしかしたらこれはボクのわがままなんじゃないかっても思う。だからもし言いたくないならその時はそれ以上は追及しないでおこうとも決めていた。そしてボクの声が消えてから多分1分ぐらい沈黙が居座った後に。チャットがジョンクさんの言葉を代弁した。


『hikikomori dakara(引きこもりだから)』


正直に言うと何となくというかもしかしたらとは思っていた。だけど実際に言われると何て言っていか分からず黙ってしまう。そんなに長く黙ってたわけじゃないけどジョンクさんにはその沈黙が耐えられなかったのかボクの言葉を待たずしてGチャットから退出した。そのポツリと聞こえた退出を知らせる機械の淡々とした冷たい音声はボクの心に後悔のような哀愁のようなよく分からないものを生み出した。そしてそんな複雑であまり良いものではない感情を抱えたままボクはPCを閉じるとベッドに寝転がる。


「はぁー」


横になると呼んでもないのにため息が現れた。力になりたい。そう思いはしたが実際どんな問題なら力になれるだろうか。交通費的な金銭問題?そういうのは駄目だと言われる親との問題?もしそういう問題だったらボクは解決に力を貸せただろうか?無理かもしれない。お金はないし。ひと様の家に口を出すことは出来ない。結局、口だけでボクが力になれることなんてないのかもしれない。そう思うと自分の無力さにまたため息が現れた。


「でもジョンクさんは何で引きこもっちゃったんだろう」


理由を考えてみるがボクはジョンクさんのことを何も知らないから当然分かるはずもない。自分に何か出来るとは思ってなかったが何か少しでもって思ってそれからしばらく頭を働かせた。でも結局、何か思いつくわけでもなく気が付いたら眠ってしまってた。お母さんの夕飯の声で起こされたボクはご飯を食べてお風呂に入る。ゆっくりと湯船に浸かりながらも頭の中ではさっきの事を考えていた。相変わらず何も思いつかなかったけどふと自分の変化に気がいた。


「誰かの事でこんなに悩むって初めてだ」


コミュ力を含め何か秀でたモノがないボクは友達がおらず人間関係とか誰かのことで悩むってことをあんまりしてこなかった。誰かの為になんて尚更だ。だけど今はジョンクさんのために何かしたいと頭を悩ませている。そう考えると余計に解決といかなくとも良い方向に運びたかった。


「でもジョンクさんのためって思ってるけど助けを求められた訳じゃないし。なのに何かしようとするってただの自己満なのかな?」


相手のためとは言うが結局は自分の望むことをする。ジョンクさんが望んでいるかも分からないしもしかしたらボクはジョンクさんを使って自分を満足させようとしてるのかもしれない。自分にとっての善意を全員にとっての善意と履き違えてそれを無理やり押しつけて自分勝手に満足しようとしてるのかも。


「いやでも。もし直接訊いたとして、何かして欲しいと言われたとしても何ができるか分からないしなぁ」


永久機関のように結局は何をしたらいいか分からないという結論にたどり着く。ボクはそのもどかしさのようなモノに押され湯に頭を突っ込んだ。1、2、3...数秒間水中で酸素を拒むと勢いよく顔を上げ今度は腹を空かせた食いしん坊のように口を大きく開けて息を吸い込む。だが、そんなことをしたところで何か思いつくわけでもなく息を整えたボクはお風呂を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る