11
「やった!勝てた!」
勝ちが決まった瞬間、まるで優勝したかのような喜びにボクはガッツポーズをした。だが勢い余って手をテーブルにぶつけてしまったのは、もしかしたらまだそんなに喜ぶタイミングじゃないって自分に言われてるのかも。
「いったぁ」
「何やってんのよ」
「ちょっと手をぶつけちゃって」
「おぉー!でも初戦は勝ったぞ!」
『ippaikill dekite yokatta(いっぱいキルできて良かった)』
「でもこの試合にはジョンクさんのおかげで勝ったって言っても過言じゃないよね」
確かに他のみんなも頑張ってたけど一番の貢献人はジョンクさんだと思う。試合に勝つことに置いてキルが全てって訳じゃないのは確実だけどキルが重要な要素だってことも確かだとボクは思ってる。だからこの試合で一番多くキルをして勝利に導いたジョンクさんは間違いなく一番の貢献人なんじゃないだろうか。とにかく初戦突破出来て良かった。2回戦までは少し時間があってその時間は適当に潰した。
「あぁぁぁ!また負けたぁぁ」
「何やってんの?」
少し席を外していたビスモさんはカズの叫び声に訝しげに反応した。
「アニさんとカズが格ゲーで対戦してるんです」
「アニ。格ゲーはマジで強いからね」
「昔よく僕の家でやったよね。勝つたびにビスモのパンチが飛んできてたっけ」
「初心者狩りされてイラついたから」
「初心者狩りって...。ハンデも沢山あげたじゃん。HP半分とかコンボなしとか」
「うっさい。操作してるアンタを倒したら実質アタシの勝ちじゃん」
「いやいや。100歩譲ってそうだとしてもゲームでは僕が勝ってるから引き分けだね。というかビスモのパンチ痛いんだよ。力強いし」
「アンタが貧弱なだけでしょ」
「あのー。もうひとつのとこも早めに試合終わったらしいくて2回戦早めにやりませんか?って来てるんですけどどうします?」
「いいんじゃない?」
「僕もいいですよ」
「俺もぉぉぁあぁぁ!うっま!」
『ok』
みんなの了解を得たボクは相手のクラマス【クランマスター】に返信をした。それから開始の手筈を整えみんなを相手が作ったカスタムに招待する。
「あぁー格ゲーして疲れた」
「それで変なミスばっかしたら殴るわよ。アニを」
「えっ!何で僕!?」
「アンタと格ゲーしたら疲れるの分かるから」
「えぇーそんな理不尽な。カズ君とりあえず変なミスはしないで。僕の為にも」
「えーフリじゃんそれ」
「逆にそのプレッシャーでしちゃいそうだよね」
「俺はなおよりはプレッシャー耐性あるから大丈夫」
そんな会話をしていると全体チャットに相手から『rdy』の文字が。
「よし!2回戦頑張ろう」
自分に言い聞かせるように呟くと『rdy』の文字を返した。緊張も大分和やらいでいい感じだと思ってたが2回戦は少しヤバかった。みんなもそうかは分からないけど、ボクに関しては1回戦が思ってた以上に順調に勝てて少し驕ってたというか油断してたのかも。1マップ目を取られたが2マップ目を何とか取り返す。そして運命の3マップ目。
「次は自動生成かぁ。覚えられるか心配だぁ」
「とりあえずボム周辺を優先的に覚えたらいんじゃない?」
「もし覚えられなかったら最初はボム中でマップ見ててもいいよ」
『koretottara kati(これ取ったら勝ち)』
「そうだね。とりあえず僕とカズ君は頑張って覚えて勝とう!」
再び気を引き締めたボクらは3マップ目の自動生成マップに挑んだ。初見マップをどう攻略するか。しかも相手より上手に。それを考えながら色々と試行錯誤してきたことは無駄ではなかったらしく、楽勝とまではいかなかったものの何とか勝つことが出来た。
「ふぅー。マップ意外と覚えられてよかったよ」
「2回戦も突破だぁ!」
「意外といけるもんね」
「この調子で次もいきましょう!」
『tugimo katu!(次も勝つ!)』
それから3、4回戦と意外にも順調に。いや、危ない場面も多々あったけど。だけど勝利を収め確実に駒を進めることができた。そして次はDay1最終試合の5回戦。
「次は5回戦ですよ」
「もしかしてさ。これ勝ったら準々決勝?」
「はい。Day2のオフラインです」
「えー!やばっ!」
『ohurain ttekotoha tyokusetu kaijouni ikuttekoto dayone?(オフラインってことは直接会場に行くってことだよね?)』
「そうですね」
「そうなったら実質オフ会じゃん」
「そういえば僕らって直接会ったことはないよね。僕とビスモは知り合い同士だけど」
「そう考えるともしオフラインまで行ったら別の意味でも緊張しそうですよね」
「俺は楽しみだな!みんなに会えるの」
「僕もこんなに遊んでるから一回ぐらい会ってみたいかな」
もしここを勝ったらみんなと直接会うのか。改めて考えたら会ったこともないのにこんなに楽しくて仲良くできるってすごい。ほぼ毎日会ってるクラスメイトにすら友達はいないのに...。でもよく考えたらみんなはボクのことを友達と思ってくれてるんだろうか?今まで人と接してこなかったからかそんなことも分からないけど訊くのもなんか恥ずかしいしそうだと信じておこう。それにその方が幸せだし。
「まぁその前にここ勝たないといけないけど」
「よっしゃ!みんなに会うためにも頑張るか」
勝てなくてもオフ会とかすればいいのでは?と思ってしまったがそれでやる気が出てるのならいいか。今日はジョンクさんの調子がいいしみんなも悪くはない。それにここまで勝ち進んだという自信もあるし根拠はないけど次も勝てそうな気がする。だけど2回戦みたいにならないように油断は捨てて全力で立ち向かわないと。だって相手は5回戦まで残った人達なんだから。
『bed ni 1(ベッドに1)』
ジョンクさんがやられたキルログが流れた直後に敵の報告が入る。
「裏から1で正面から3。あと1は分からないです」
「正面少しだけ押さえられるなら裏を2人ぐらいで一気に潰した方がいいじゃない?」
「まだそんなに進行してないしそれでもいいかも」
「俺、行くわ」
「じゃカズとアタシで行ってくる。もしやる前にどっちかやられたらちょっと退き気味で裏を守ってもいいかも」
「りょーかい」
やっぱり相手は油断とかしてられないぐらい強くて1、2、3ラウンドと連続で取られてしまった。ジョンクさんも疲れてしまったのか今までの勢いがない。
『yarareta(やられた)』
「こっち誰かカバーくれないかな?」
「はい。ボクがいきます」
そこから何とかくらいつき4、5、6ラウンドを取り返すが最終ラウンドは落としてしまった。そして2マップ目。ボクらの選択マップということもあり7対6で取ることができた。今のところ実力は均衡してるというよりギリギリこっちが食らいついてるって感じ。3マップ目自動生成マップ。ファーストラウンド最後はジョンクさんの1on1だったが負けてしまいあまりいい出だしではなかった。
『sry【sorry】(ごめん)』
「ドンマイです」
「まだ1ラウンド目だから次。次」
1回戦からここまで勝てたのはアタッカーでかつ絶好調だったジョンクさんの影響が大きいのは周知の事実だと思う。だからこそボクらは調子が落ちてしまったジョンクさんをカバーするように、ジョンクさんの分まで頑張った。ここで負けてはジョンクさんに申し訳ない。それに何よりここで負けたらボクらは負んぶに抱っことまでいかなくともジョンクさん頼りのチームってことになってしまう。それは1人に押し付けてるみたいで嫌だ。その気持ちもあったが同時にボクは自分がこのチームに必要だと、上手いみんなと共に戦ってきたっていうのを自分自身に証明したかった。そんな想いを抱えたまま3マップ目は続きそしてついに最終ラウンドが終わった。
「こんなことあるか?」
「いや。アタシもこれは想像してなかったわ」
「でも現実だからね。....だよね?」
「ベスト8に入れるなんて...。オフライン大会ですよ!」
みんなここまでこれるって思ってなかったんだろう。興奮っていうよりは実感が湧かないって感じだった。だけど徐々にその実感が湧いてきたのかテンションが上がっていく。そしてあの場面が良かったとかあの場面はヤバかったとか5回戦までの試合を振り返り始めた。その話ですっかり盛り上がっていた中、ずっと黙っていたジョンクさんの一言がチャットに打ち込まれる。
『ohurain ha derarenai(オフラインは出られない)』
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