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高校1年の6~7月頃にヴィランに出会ってから気が付けばボクももう高2として秋を迎えた。この日は担任の高橋先生と二者面談だった。
「尚也。お前進路はどうするか決まったのか?」
「いえ。まだです」
「そろそろ考えないとダメだぞ」
「はい」
「確か部活はしてなかったよな?」
「してないですね」
「帰ったら何やってるんだ?」
「一応勉強もしてますが基本的にゲームしてます」
「まぁ確かに成績は悪くはないな。でももう少し勉強に時間を割いてもいいんじゃないか?」
「はぁ、考えときます」
「娯楽もいいが、たかがゲームよりも勉強をした方が将来の為だと思うぞ」
たかがゲーム。最近聞いた言葉だ。ボクもKnBeeさんみたいに言い返すことができたらって少し思ったけど何の実績もましてや大会すら出たことないボクが何かを言える立場じゃないんだろうな。だけどボクだって、ゲームだけど真剣にやってるしOFGとかK.A.Kとか
「――わかりました」
「まぁ後悔しないようにじっくり考えろ」
「はい」
この日の夜はビスモさんとアニさんは出来なくてジョンクさんはソロを回すらしくカズと2人だった。
「カズは進路とか決まってるの?」
「具体的なのはまだだけど大学行くかな」
「大学かぁ」
「なおは?」
「まだ決まってない」
「つっても俺そんなに頭良くないからいける大学も限られてくるんだけどな」
それはボクも同じだ。でも将来の夢かぁ。出来ることならボクもプロゲーマーになりたい。かも。多分ボクが想像している以上に過酷で辛いとは思うけどそれでもなってみたい。どうせ辛いなら好きな事で辛い方が耐えられる気がする。そして二者面談の次の日の夜。この日もみんなとランクを回していた。
「マッチしたぞー」
「いい加減ここら辺を行き来するの飽きたし連勝したいわね」
『katitai(勝ちたい)』
「負けるのは悔しいし頑張ろうか」
今日は割と勝てて2時間程度回したところの勝率は8割ぐらい。でもボク自体のキルはあんまりだし貢献度もそこそこだった気がする。それは多分昨日からずっと考えていることが原因だと思う。
「あの」
「ん?どうした?」
「もしよかったらでいいんですけど」
「何よ?」
「ヴィランの大会出ませんか?」
別に先生の言葉を訂正出来なかったのが悔しかったからというわけじゃない。ただ前から、もしかしたらヴィランの始まりになったあの大会の決勝を見た時からかもしれないけど1度は出てみたいって思ってた。でもボクらは一応クラン戦みたいなのはしてるけど大会を目指して集まった訳じゃないからみんながやりたいならって感じ。
「大会ねー」
「大会かぁ」
あまり反応は良くない?かな?
「もちろんもしよかったらでいいですけど...。ただみんなでランクとかクラン戦とかをしててすっごい楽しかったからこのメンバーで大会出てみたいなって思っただけで...」
やっぱり大会とかは違うかな。ボクはOFGと桃太郎の決勝を見てからこのゲームを始めたから大会とかプロとかへのあこがれが強いけどみんなはただ単にこのゲームが好きなだけなのかも。
「まぁいいんじゃない?」
「俺は出てみたいなー。どれくらいやれるのか知りたい」
「結構大会とか見るけど毎回楽しそうだから出るのも悪くないかも」
みんなの答えに思わず口元が緩む。ベスト8とかベスト3とか優勝とか高い目標を持ってるわけじゃないけど(もちろんいけるなら行きたい)少しでもプロの人達に近い舞台でプレイをしてみたい。緊張の中でしかもみんなに見られながらプレイするってどんな気持ちなんだろう。ましてやその緊張を乗り切って優勝する、大きな歓声を浴びるってどんな気持ちだろう。
「ジョンクさんはどうかな?なんて言うんだろう。ただ大会に出たいっていうよりはいつもランクとかクラン戦とかしてるみんなと出たいんだけど...」
『――kangaetoku(考えとく)』
「次の大会っていつ?」
「一番近いのは1月だと思います。何とか杯っていうオンライン大会があったと思いますよ」
「じゃあとりあえず出るっていうのを前提にクラン戦とかすればいいじゃね?」
「そうだね。クラン戦とかはいつ通りやって」
「いいんじゃない。それで」
まだ決まった訳じゃないけど出られるかもしれないと思うと少し楽しみだ。大会の話をしてからはクラン戦を多くするようになった。その他にもマップ研究をしたり作戦も色々と考えたり。そして話の数週間後、ジョンクさんもオンライン大会なら出てもいいって言ってくれてボクらの大会出場が決定した。出場決定って言ってもエントリーすれば誰でも出られるんだけど。大会に出ることが決まってからはより一層大会を意識してランクやクラン戦をやるようになった。どうせ出るなら勝ちたい。みんなそう思ってたんだと思う。意外と負けず嫌いみたいなところが少なからずあるから。そしてついに迎えた大会当日。
「あ~緊張する」
初めての大会。ボクの心臓を爆発しそうなぐらいに鼓動させるにはそれだけで十分だった。勢い余って口から出てきそう。出てきたら呑み込んだ方がいいのかな?いや、さすがにそれは要らない心配か。この大会は一応賞金5万円あるけどボクはそれよりただ1回でも多く勝ちたいって気持ちの方が強かった。
「別にオンラインだし雰囲気は普通のクラン戦と同じでしょ」
「ビスモ冷めてるなー。画面とかは一緒だけど、雰囲気ってやつがあるじゃん」
「別に」
「いやー、俺は楽しみだなー。このメンツでどれだけ勝てるのか気になるし」
『yarukaraniha katitai(やるからには勝ちたい)』
「レディしていいかな?」
全員から返事を貰ってから全体チャットに『rdy』と打ち込む。そして相手からも同じチャットが返ってきていよいよ一回戦が始まった。
「1人やって、1人激ローにしたし退く」
「ビスモ、カバーするよ」
『2 2kai(2人二階にいる)』
「1人やった」
出だしは結構いい感じだった。でも、
「すみません。やられました」
「あぁー!ごめん。それカバーできなかった」
「うわっ!まだロックしてた」
『hasamareta(挟まれた)』
「んー。ちょっと1v5はキツイかなぁ」
こっちのペースが乱れたのか相手が本領を発揮したのかは分からないけど、試合が進むにつれて優勢のシーソーは相手側に傾き始めた。ミスが積み重なるにつれてそれを取り戻そうと無理してしまい更にミスが生まれる。それはまさに底なし沼から抜け出そうともがくが故にどんどん沈んでいくような感じだった。そしてその先にある結果は容易に想像できるもの。
「負けた...。すみません。後半結構テンパっちゃって」
「アタシもミス多かったわ」
「俺も結構無理しちまったー」
「僕も1on1落としすぎちゃったな」
『hennapi-kusite utimakeruno kekkouatta(変なピークして撃ち負けるの結構あった)』
優勝とかはあんまり考えてなかったけど一回戦は心のどこかで勝てると思ってた。それだけに結構落ち込む。しかも全てを出し切って負けたっていうより変なミスとかしちゃって負けたから余計にモヤモヤが残っていた。
「悔しいからさ。もう一回出ない?」
そう言ったのはビスモさんだった。
「この負け方は悔しいから俺ももっかい出てーな」
『ribenzisitai(リベンジしたい)』
「そうだね。悔しいのもそうだけど緊張感あって何より楽しかったしから」
どうやらみんな同じ気持ちだったらしい。良かった、嫌気とかさしてなくて。
「なおは?」
そんなの決まってる。さすがに今回の負けで、はい終わりなんて心残りしかない。負けるならせめてこれ以上は上手くできないって言うぐらいにちゃんと力を出し切って負けたい。いや、負けたくはないけど。だからもう一度挑戦できるならしたいな。
「もちろんやりたいです」
「じゃあ決まりね」
「次は新year入ってから4月?」
「それってアレだろ?ジャパンカップの予選のやつ」
「それは6月じゃなかった?」
「まぁあどれでもいいけどね」
『japan cup kyonen no kesshou mita(japan cup去年の決勝見た)』
「ボクも見ましたよ!会場に行って」
ボクにヴィランを教えてくれた大会。感動とか興奮とか色々なものをくれた大会の名前に思わずまた興奮してしまった。
「俺も見たぜー。配信でだけど」
「僕も2日間共会場に行ったよ。ビスモと一緒に」
「ビールと食べ物が美味しかったのよく覚えてる」
「いや、試合もすごかったでしょ」
「まぁね」
それから少しの間、その話で盛り上がった。とりあえずまた大会に出られることが決まって嬉しい。それにリベンジに燃えるってわけじゃないけど今度こそは!って感じで前よりやる気がみなぎってきた。
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