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それからランクマッチの回数を重ねていくうちに緊張もしなくなりいつも通りプレイできるようになった。いつも通りミスもするけど。


「ジョンクさんカウンター裏にワン」

「なお君こっちカバー宜しく」

「はい!」

「ビスモさん裏見ててほしいっす」

「はいよ」

『1kill 1hp30』

「やられた。なおラスト1on1。Aポ中の倒した本棚の後ろ。ハーフにはしたわよ」

「はい」


これを勝てればこの試合勝てる。緊張はしてたけど不思議と落ち着ていた。頭が冷静なおかげで解除デバイスの設置の駆け引きも選択肢にいれつつポイントを攻める。音を聞きながらまずは慎重に索敵する。まだ時間はある。ビスモさんの最後の報告位置を警戒はするけど移動している可能性も全然あるからそれも頭に入れて。静けさとボクが負けたら試合に負けるというのが緊張感を煽るがプレイに集中することが出来てるのはきっとみんなが優しいのを知ってるからだろう。


「Bいる」


ビスモさんが読み上げてくれたジョンクさんの報告を聞くとAに入りBを警戒する。ドアやローテ穴【2つの部屋を行き来する為に壁に開けた穴】を警戒するが敵はずっとBにいるようだ。ならまず1回設置を試みる。設置中、こちらに来る足音が聞こえると設置を止め詰めてきた場合を最優先で警戒した。詰めてこない。ならもう1度設置の駆け引き。次はもう少し引き付けよう。足音が聞こえるが限界まで設置を続けた。あともう少しで設置が終わりそうだったがやり切ったら間に合わないから途中で止めて足音方向を決め撃ち。当てることはできたけどやりきれなかった。だけどダメージ的にもこっちが更に有利。このまま詰めるか射線切れるし設置フェイク?でも時間無いし倒しに行くしかないか。そう覚悟を決めるといつ敵が出て来ても撃てるようにエイムしながら詰めていく。決め打ち対策で数発決め打ちするが銃弾は空を切る。そして敵が隠れたたオブジェクトに近いた瞬間、相手は姿勢を変えながら決め撃ちをして出てきた。だけど反射的にしゃがみ姿勢にエイムを合わせ頭を撃ち抜く。数発喰らったけど相手はHPが無かったからそのままラウンド勝利の文字が画面に表示される。


「よし!」


緊張も相俟ってかガッツポーズをしながら叫んだ。頭の中でアドレナリンか何かは分からないけど何かしらの脳内物質が出ているのを感じる。気持ちいい。これもこのゲームを続ける理由のひとつなのは確かだ。


「ナイス!」

「ないす」

「上手いっ!」

『nice』

「ビスモさんがハーフにしてくれてたおかげです」

「いや、なおの駆け引きとエイムがあったからね」


最初の試合の大きなミスを取り戻したような気分で嬉しかったし自信もついた。それからもう少しランクを回したところでこの日は解散した。それからもちょくちょく5人で集まってはフルパでランクを回す。だけどやっぱりこのランク帯はフルパでも勝てたり勝てなかったり。連敗が続く時もあった。それは多分敵が上手いっていうのもあるけどパーティーが多いっていうのもあるんだと思う。だけどランクを続けていくうちに(他のみんなが強いおかげだと思うけど)ボクも念願のダイヤモンド帯に突入した。


「やったー。ダイヤだ!」

「俺もダイヤだぁぁ!」

「よかったじゃん」

「二人ともおめでとう」


ちなにみビスモさんとアニさんは少し前からダイヤに突入していた。元々一緒に始めた時からボクとカズより少しだけだけどランク高かったし。


『konomamaittara konoakaga honaka koesou(このままいったらこの垢が本垢越えそう)』

「ジョンクさんはいまどのくらいなんですか?」

『honnakaga daiya2 sabuga pura2(本垢がダイヤ2、サブがプラ2)』

「ソロでダイヤ2ってすごっ!」

『ippai yattakara(いっぱいやったから)』

「マッチしたわよ。アタシこれで落ちるわ」

「わかりました」

「よっしゃ!最後は勝ちで終わりますか」


ダイヤ帯になっても勝ったり負けたりは変らず中々ランクのポイントは増えない。でもポイント云々っていうよりもはやこのメンバーでランクを、ゲームをすること自体が楽しくてそれが目的みたいなところもあった。多分そこがボクの中で一番変わった部分だと思う。誰かとゲームすることが楽しいって思うようになるなんて自分でも少し意外。別に人が嫌いって訳でも誰かと仲良くするのが嫌だって訳でもないけど今まで学校でも1人だったから誰かと楽しく会話しながらゲームしてるっていう状況がちょっと驚きだった。そんな前のボクにとっては非日常だったある日、カズが5分ぐらい席を外し戻ってくるのを待っている間にボクはOFGの前シーズンのクラン戦を見始めた。シーズンごとにマップが変るから前シーズンのクラン戦をアップするクランも多い。


「ボクもクラン戦してみたいな」


頭に思い浮かんだ言葉がそのまま口から零れた。何も考えてなかったから独り言のように呟いてしまったんだろう。


「クラン戦ねぇー」

「えー楽しそう。僕もやってみたいな」

『kyoumi aru(興味ある)』

「まぁでもクラン戦何てやろうと思えば簡単に出来るからいんじゃない?試しにやるぐらい」

「カスタムにクラン戦というか対戦相手募集する掲示板みたいなのありますもんね」

「あれって確かクルーチャットの投稿で追加されたんだよね。発売から1年後ぐらいに」

「クルーチャットってヴィランのホーム画面から飛べるやつですよね?」

「そうそう。運営が今取り組んでることが載ってたりプレイヤーがゲームの調整とかこんなの追加してほしいとかの意見を送信できるやつだね」

「でも誹謗中傷とかも送られてきそうですよね」

「あれって意見とかじゃなく単なる誹謗中傷を書きこんだらBANするって書いてなかったっけ?クルーチャットの上ら辺に赤文字で」

「あるよ」

「ただいまー」


そんな会話をしてるとカズが戻ってきた。


「なんの話?」

「なおがクラン戦したいって言ってそっからクルーチャットの話」

「クラン戦!?俺もしたい!」

「でもこのランク帯とのクラン戦って作戦とかちゃんと立てないとキツいんじゃない?」

「だけどどうせクラン戦するならランクみたいに即興じゃなくてある程度作戦立ててやりたくないですか?」

「じゃさじゃさ。今からカスタムで作戦練ろーぜ」

「え?クラン戦やることは決定でいいの?」

「アタシは別にいいよ」

「僕もやりたいな」

『ok』

「決まりだな」


何となくボソッと呟いただけだったが本当にやることになるなんて。でも楽しみ。そしてカズの提案でカスタムに入ったボクらは適当に2マップを選んでまだ分からないなりにも一応で作戦を立てた。その日にやるのはさすがに無理だったからその後に回した数回のランクで作戦を試してこの日は終了。ランクでやってみてもう少し形にしてからやろうということになり数日はランクで作戦を身に付けることにした。


「今日はどうします?」

「作戦も覚えたしやってもいいんじゃない?」

「おっ!ついに行く?」

「行こう行こうクラン戦」

『sonomae ni tureru ka(その前につれるか)』

「とりあえずこのランク帯のまだクラン戦とかあんまりやったことないチームで募集してみましょうか」

「クラン名はどうすんの?」

「何かいいのあります?」


その言葉にボクも含めて全員がんーと考え始めた。


「Lion earsとかどう?強い動物といえば獅子。だからその耳。ネコ科で可愛いんだよね」

「Wo ist der Raucherbereich?」

「いや、それビスモがドイツ旅行行った時に唯一覚えた言葉じゃん」

「どういう言う意味なんですか?」

「喫煙所はどこですか?って意味らしい」


ビスモさんらしいと言えばそうなのかもしれない。


『wolf ookamisuki(ウルフ。狼好き)』

「侍とか日本っぽくてよくないですか?」

「じゃー侍ウルフとかでいいんじゃない?」

「アタシはなんでもいい」

「まぁイヌ科の耳も好きだしいいよー」

「それじゃあ名前はそれにしときますね」


『samurai wolf』っと。


「あとは待つだけですね」

「ランクして待ってようーぜー」

「招待よろしく」

「ボクがやりますねー」

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