6

入室音の後に先程の女性の声が相変わらずのテンションで挨拶をした。


「どーも」


こう言ったら失礼かもしれないけどめんどくさそうな雰囲気がこの人にとっての通常運転なんだろう。


「はじめましてー!快くokって言ってくれてあざーす」

「いいよ。アタシもソロには少し疲れてたし」

「ソロってキツそうですよね。俺らずっと2パでやってるけどキツいし。あっ!おねーさんは何て呼べばいんすか?」


毎回思うけどカズのコミュ力は尊敬する。


「アタシはID通りビスモでいいよ」

「ビスモ?なんか聞き覚えがある気が...。何かのキャラっすか?」

「いや。アタシ吸ってる煙草の名前」

「あぁ~なるほど」

「で?そっちは?」

「俺はカズ」

「ボクはなおです」

「おっけ。じゃランク行こうか」

「りょーかいーっす」


ビスモさんはやっぱり上手くて一緒にプレイしてるとボクもまだまだだなって感じた。それにビスモさんはミスしても怒らないし、どういう風に攻めたり守ったりするかとかの提案を積極的にくれるし、ボクらの意見にもちゃんと耳を傾けてくれる。一緒にプレイしててとっても楽しい良い人だった。少し言葉は悪いけど別にそれは全く気にならない。あと、当たり前だけど2人より3人の方が情報が多くてやり易かった。


「やっぱ人数いる方がやりやすいわね」

「そうっすよね。やっぱ情報が多いし。というかビスモさんがシンプルに強い」

「何であんなに撃ち勝てるんですか?」

「そりゃ、使ってるから」

「使ってる?」

「ウォールハック【ゲームチート行為の一種】」


ビスモさんがチーター!?衝撃すぎて言葉が出なかった。


「え!?マジっすか!?」

「いや、ウソ」

「ですよね。ビックリしました」

「使う訳ないでしょ。チーターなんてクズ、カス、ゴミ。犯罪者のクソ野郎」

「分かるけど憎しみがすげぇ。でも俺らってほとんどチーターにあったことないよな?」

「そうだね」

「今は運営が頑張ってるからほぼいないけど発売から少ししての一時期はすごかったわよ」

「でもあんなの勝てないっすよね」

「あの頃はこのゲーム止めてやろうかと思ったけど運営が頑張ったからね。今もこうして続けてるってわけ」

「あっ、マッチした」

「まぁチーターはそいつのPCでそいつのPCが壊れるまでタコ殴りにしたいぐらいイラつくって話よ」


なんでだろう。ビスモさんなら本当にやりそうな気がした。まぁでもチーターなんてそれだけ害悪でしかないってのは十分理解できる。個人的にはPCを壊すまでいかなくとも二度とオンラインゲームをしないでほしいかな。そしてビスモさんを入れた3人パーティーで2~3時間ぐらいプレイしたところでこの日は終わりにすることになった。ボクはもちろんカズもそしてビスモさんも楽しかったらしくまた一緒にプレイしようという話になり、Gチャットに作ってあったボクらのルームに彼女を招待。最後はまだしてなかったフレンド申請をしてからゲームを終えた。それからゲームが出来る時はこの部屋に集まっては3人でプレイするようになった。やっぱり3パになったというのは大きいらしく苦戦はしたけどランクが1つ上がりついにプラ1へ。だが2人から3人になり満足してたせいで忘れてしまっていたフルパでプレイするという当初の目的はしばらくしてから思い出した。早速ボクらはまずビスモさんに誰かいないかを尋ねる。


「そもそもアタシフレ少ないからなぁ。その中から同じランク帯ってなると...。あっ。1人いるわ」

「じゃあもしよかったら誘えるっすか?俺らフルパでやってみたいんすよね」

「ROIN【コミュニケーションアプリ】で訊いてみるわ」

「お願いします」

「ん。――多分今日は休みだと思うからすぐ返信くると思うよ」

「その人は何してる人なんすか?」


ビスモさんはカズの言葉を聞きながら(オイルライターの蓋を開けて火を点ける音が聞こえたから)多分タバコに火を点けた。そして煙を吐いた後にその質問に答えた。


「ホスト」


それは人と話すのがあまり得意じゃなくて顔もそうでもないボクにとっては縁の無さそうな職業だった。それと勝手なイメージだけどホストの人は所謂パリピな人が多そうだからそういう意味でも縁がなさそう。


「っていうかビスモさんってホスト行くんすね。ちょっと意外」

「行かないわよ。そいつはただの幼馴染」

「そうなんですね。もしあれだったらいいんですけどビスモさんは何をしてる方なんですか?」

「アタシ?アタシはまぁ、普通にOL」

「確かにビスモさんって上司感あるっすよね。ちょっと口が悪いけど頼りになる上司って感じっすね」

「うっさ。そう言うアンタたちは学生でしょ?」

「はいそうですよ」

「えっ!何で分かったんすか!?」

「分かるでしょ雰囲気で」


ボクもどちらかと言えばビスモさん派だった。自分で言うのもなんだけど何となく分かりそうな雰囲気はありそう。特にカズは。


「中学か高校でしょ?そんな感じがする」

「やだなぁ高校っすよ。中学生なんて子どもっすよ一緒にしないでくださいよ~」

「あーはいはい。悪かったわね」


多分だけどビスモさんの考えていることが分かった気がする。中学も高校も同じでしょ。って思ったと思う。ボク的にはどっちの言うことも分かるかな。大人から見ればどっちも大して変わらないかもしれないけどボクらからしたら色々と変わるから違うんだよね。


「あっ。さっきの奴から返信返ってきたけど出来るらしいよ」

「まじっすか!やりましょやりましょ」

「じゃあアタシが誘うわよ?」

「おねがいしっまーす」


この会話から少ししてGチャットに入室の知らせが届いた。


「あっ、どーもー初めまして。Animal M《アニマル イヤーズ》って言います。よろしくお願いいたしまーす。呼び方はアニでいいですよ」


顔は分からないけどカッコよさそうだなと思ったのはホストって聞いてたからだけじゃなくて爽やかな声もあったからだと思う。そしてボクとカズも自己紹介と挨拶を返した。


「いやでも、う...ビスモから誘いが来るなんて嬉しいなぁ」

「アンタ今、アタシの名前言いそうになったでしょ?まぁ名前ぐらいいいわよ。神木かみき

「え!?うそっ!僕は堪えたのに!?」

「苗字なんだし別にいいでしょ。それにアンタの名前にそんな価値ないわよ」

「ひどい!」


どうやらこの2人は結構仲が良いみたいだ。さすがは幼馴染。


「そんなことはどうでもいいけど、アンタ誰か誘えるフレいないの?リアルでもネットでも無駄に友達多いのアンタの自慢のひとつでしょ」

「無駄ってひどいなぁ。それに自慢はしたことないだけど...。でも今誘えるフレンドかー。んー。そうだなぁ」


少し考えたアニさんは指をパチンと綺麗に鳴らした。


「たまに誘ったらきてくれる生粋のソロプレイヤーだけどいい人がいるよ」

「それは生粋とは言わないでしょ」

「メイン垢が完全ソロで誘った時はサブで来てくれるから生粋」

「その人って今誘えるっすか?」

「待ってて。今聞いてみるから」


初めてフルパでこのゲームができるかもしれない。それはボクをワクワクさせたが同時に足を引っ張らないようにしないといけないという緊張もさせた。アニさんの送ったメッセージへの返信は意外と早く、すぐに来てくれることになった。


「これから来るJonk《ジョンク》さんだけど聞き専で報告とか会話はチャットでしてくれるから。今回はフルパだからゲームのチームチャットで会話もしてくれると思うよ」

「了解っす」

「分かりました」

「この前の人?」

「そうそう」

「ビスモさんは一緒にプレイしたことあるんですか?」

「1回だけ。シンプルに撃ち合いが強いってイメージかな」


ボクからしたらビスモさんも十分強いけどそれ以上に強い人なのかもしれない。会話をしながら待っているとGチャットとゲームパーティーにそのジョンクさんが入ってきた。


『yorosiku onegaisimasu(よろしくお願いいたします)』


入ってきたジョンクさんはアニさんが言ってた通りゲームチャットで挨拶した。それに対しボクとカズは普通に声で挨拶をする。


「よっしゃ!フルパだ!」

「フルパって初めてだから緊張する。足引っ張っちゃったらすみません」

「そんなの気にしてたらほんとになんもできなくなるわよ」

「僕も全然だし気にしないでよ」

『zibun ni kansite ha sabuakadasi ranku sagarutoka kinisinaide(自分に関してはサブ垢だしランク下がるとか気にしないで)』

「おいおいもっとプラ1という自信を持てって」

「そうだね。頑張るよ」

「ほらマッチしたわよ」


そして初となるフルパでの試合が始まった。今まで何時間もそれどころか何百時間ももしかしたら千時間いってるかもしれない程にこのゲームをしてきたけど今までのどの試合より緊張するのはなんでだろう。口から血液が出そうな程に心臓が脈打ってる。そのせいか全然エイムが定まらない。元々そんなに定まってないけど。


「なおそいつ激ロー【HPが少ない】やれる」


ラスト1on1。相手は激ローしかもリロード中。圧倒的有利な状況。なのにボクは緊張のせいか、いやそれは言い訳だろう。クソエイムを晒して有ろう事かノーダメの状態で負けた。


「すみません」

「いいよ。気にしないで」

「どんまい」

『nt(ナイストライ)』

「まだ試合は負けてないし次行くぞ」

「よし!気を取り直して頑張るぞ」


気持ちを切り替えたつもりだったけどそれからも色々とミスをしてしまって結果、試合は負けた。


「ミスばっかしてしまってすみません」

「気にしすぎ」

「俺も勝てる撃ち合いで負けたしな」

「僕もミスしちゃったし大丈夫ですよ」

『np(気にしないで)』


あんなにミスしたのにこんな温かい言葉をくれて。申し訳なさと次は頑張ろうという決意のような強い気持ちが湧いてきた。それとこの試合をしてる時に思ったのは、やっぱりパーティーを組んでるのと組んでないのでは違う。パーティーを組んでない人ならミスとかして負けても味方はその試合だけだけどフルパは何試合も一緒。ミスをすれば、そのミスで負ければその度に次は取り返さないといけないというプレッシャーが更に伸し掛かってくる。だけどボクはそのプレッシャーでまたミスをしてしまう悪循環に陥ってしまった。しかもそのせいで負けてすっかり落ち込んでいたけどみんなは変らず優しい言葉をかけてくれた。どうやら感じてたプレッシャーはボクの悪夢のような思い違いでただ勝手に追い込まれてただけみたい。パーティーは雰囲気が大事ってKnBeeさんも言ってたけどそれをこの試合でいや、みんなの優しさで改めて実感した。ボクは次こそはって思ってたけどもう既にこれはプレッシャーによる強迫観念のようなものじゃなくてみんなのためにっていう優しくも軽くて固いボクの意志。


「次は頑張ります!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る