5

ヴィランは基本的に室内戦がメインで壁を強化できたり、壁や床の素材によっては射線を通せたり、オブジェクトを倒したり物によっては使用することができる。マップは8つぐらいあって自動生成マップと7つの運営側が用意したマップでシーズンごとに2~3追加されていきyearごとに総入れ替えだから毎year新しいマップになる。エイムアシストは無く頭は2発で倒せる(武器によっては1発)からヘッドショットが重要。作戦とか連携が重要だがやはり1人1人のプレイヤースキルによる撃ち合いも勝つには大切な要素になる。ある程度システム的な基本は覚えた。そして操作方法を覚えて一応PvEをできるようになったら次はカジュアル。当然と言えば当然なのだがCPUとプレイヤーとでは全く違う。CPU戦でついた自信はいとも簡単に爆破された。


「はぁー。こうも勝てない上に個人的にもボロボロにされたら...凹む」


だけど悔しいからもっと上手くなりたいって気持ちもあった。だから凹みつつも次のマッチに行く。それからもキルは取れず思い通りにプレイも出来ないマッチが続く。だけど0キル続きだったからこそ初めて取れたキルは嬉しくて忘れられなかった。


「やった!キルできた!」


まだ試合中なのに達成感に満たされて気持ちくなりマウスから手を離してガッツポーズをした。その所為でカバーにきた敵にやられたけど。だけどそんなこと関係ないくらい最高な気分だった。それはまるでコップ一杯のドーパミンを一気に飲み干したように最高な気分。そして毎日毎日ヴィランをプレイし続けて1周間。それなりに対人戦になれてきたら(と言ってもほんとにペーペーのペーで素人に毛が生えた程度だけど)ボクはいよいよランクへ行くようになった。ちなみにヴィランのランクは、ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ダイヤモンド・キング・GODの7つに分かれている。更にブロンズ~ダイヤモンドは3・2・1と分れておりキングの上位100名はGODという最高ランクになるらしい。ランク戦のランクは最初に10戦の認定戦をしてからつく仕組みなのだがボクは安定のブロンズ2だった。さすがにボクも自分の実力が無いのは分かってたしこれからコツコツ頑張って上へ行こうと決めて気合を入れる。それからのヴィランは毎回ランクに行ってランクと実力の向上に励む。プレイできる時はプレイしてそれ以外は動画を見たり、授業中は前日のプレイを思い出していた。だけどそんな日々を送っていたせいで期末テストが大変なことになってしまった。原因は確実にヴィラン。それは母さんにもバレていて危うく禁止されるところだったけど、どうにか2学期の中間テストでの挽回のチャンスを貰った。


「とりあえず1時間ぐらいは勉強しよう。ただでさえ勉強しても点取れないのにノー勉はヤバい」


危機感を抱かされた期末テストも終わり夏休みに突入するとボクは朝から晩までヴィランをした。もちろん時折、勉強。その繰り返しだけで1ヶ月とちょっとの夏休みはすぐに過ぎ去った。期間は1ヶ月だったけどヴィランにつぎ込んだ時間は膨大で夏休みが終わる頃には僕のランクはゴールド2と3を行き来していた。2学期が始まってもヴィラン生活は変らなかったが夏休みとは違い頻繁に1時間程度の勉強が入り込む。そのおかげで中間は何とか点を取ることができ難は逃れた。ランクを始めてからプラチナ2に辿り着くまでに10ヶ月、2シーズンと2ヶ月ぐらいかかってしまった。このゲームが難しすぎるのかボクにセンスが足りないのか。恐らく理由は後者だろう。1シーズン4ヶ月のシーズンが終わればランクもリセットされやり直しになるのも多少なりとも影響してるのかもしれない。それを差し引いたとしてもプラ2までの道のりは険しく、全然勝てなかったりキル出来ない時もあったし暴言も言われた。チャットとかvc【ボイスチャット】とかで。自分の下手さにイラついてしまう時とかもあったけど、だけどヴィランは楽しかったしなにより思い通りにプレイできた時、クラッチ【不利な状況を覆して勝利を掴むこと】できた時の興奮するほどの嬉しさが忘れられない。悔しいけど次こそは、嬉しいからもっと。そんな感じでヴィランはボクを夢中にさせた。


「あーあ。また負けたよ。はぁ。ここ数試合負けばっか」


するとGチャット【ゲーマー向けのチャットアプリ(ゲームと連動しててゲームからメッセージを飛ばすことができる)】にメッセージが届いた。


『急なメッセージすみません。今さっき味方でマッチした者なんすけどよかったら一緒にプレイしないっすか?』


それはパーティーの誘いだった。


「パーティーか。やりたいけど...」


友達が居ないボクにとって誰かと一緒にゲームをするというのは少しハードルが高い。だけどプラ2ら辺から敵もパーティーが増えてきたし勝ちづらくなってきたのも事実。


「こういう時、コミュ力欲しいな」


でもあんまり悩んでも無視したと思われるだろうし。時間的にはそんなにだけど頭の中では色々なことを考えた結果。この人と一緒にやってみることにした。緊張とか色々あったけど何より勝ちたいし。メッセージに返信をした後にその人をGチャットに誘う。


「初めましてー」


意外と若いく陽気そうな声。


「は、初めまして」


ドクドクと緊張に鼓動する心臓を感じながら少し震えた声を出してしまった。口から心臓が飛び出しそう。改めて自分は人と話すのが苦手だと感じた。


「俺もソロでやってたんすけど全然勝てなくて。あっ!俺はカズっす」

「ボクは...。なおって言います」

「よろしくー」

「よろしく...。お願いします」


それから2~3時間ぐらいランクを回して思ったのはカズさんは声の通り陽気で良い人だということ。にしてもパーティーを組んでるとミスとかがソロ以上に申し訳ない。だけど同時に誰かとやるって楽しい。


「楽しかったっす。あざした」

「こっちこそ..。楽しかったです」

「良かったらまたやりましょ」

「――はい!是非」

「じゃあフレ申するっすね」


カズさんとフレンドになりこの日は終わった。それから時間が合えばGチャットの部屋に集まり一緒にプレイした。もしかしたら年が近いのかカズさんとはすぐに友達になれた。学校では1人で特に寂しくはないけどやっぱり友達ができるのは嬉しい。それからは毎日のようにカズさんと一緒に遊んだ。少なくとも互いに敬語もなくなってタメ口で話すようになるぐらいは。それとこれはあとから知ったんだけどどうやらカズさんはやっぱりボクと同じ年齢らしい。


「カズさん最後のナイスだったよ」

「そろそろ。カズでいいって」

「分かったよ。...カズ」


何だろう。改めて呼び捨てにするって照れる。だけどそんな恥ずかしさと慣れない違和感は数ランクを回している内にどこかへ消え去っていた。


「あー!また負けた」

「ここら辺のランク帯って結構フルパとか多いから中々勝てないね」

「なぁーそろそろ俺らもフルパでやりたくね?」

「まぁ確かに。KnBeeさんの動画でもランクで勝ちたいならフルパにするのが手っ取り早いって言ってたし。でもどうやって人見つけるの?」

「そーだな。やっぱり同じランク帯かつやってて楽しい人とがいいからなぁ」

「SNS?」

「んー。あっ!こんなのどうだ。ランクでvc使っていい人そうだったらパーティーに誘ってみるってのは?」

「でも答えてくれるかな?」

「とりあえずやってみようぜ。とりあえずvcできる人がいいからvcで返してくれる人を探すか」


それから5試合ほどvcで色々と話しかけてみたけどvcで返してくれる人はいなかった。チームチャットでの報告や暴言言ってる人はいたけど。だけど次の6試合目。相手のマッチポイントで味方が1v3クラッチを決めたことで試合は延長に持ち込まれた。相手は結構強くそれに興奮したカズはvcでそのプレイヤーに色々と言っていた。


「ナイスです!今のめっちゃ強かったっすね!最後の撃ち合いなんかよくあのHPで勝てましたね。いや、つえぇ」

「分かったからうっさい」


すると大人な女性といった感じで少し低めの声がため息まじりに呟いた。ID的にもクラッチを決めた人だ。荒っぽい言葉とそこまで明るい声ではなかったが怒っているわけじゃなさそう。


「あっ、すみませーん」


その人はそれから延長ラウンドでちょくちょくvcでも報告をくれるようになった。そのおかげもあって試合には見事勝つことができホーム画面に戻るとカズが一言。


「さっきの人、いい人そうだったし上手かったし誘ってみねー?」

「でも試合終わったしどうするの?」

「IDメモっといた」

「何かこわっ!」

「は?良さそうな人いたら誘うっていうあれだっただろ」

「そうだけどさ。そのワードが怖かった」

「何でだよ。まぁとりあえず一緒にやってくれるかメッセージ送ってみるわ」


送ったメッセージはすぐに返信が来た。


「おっ!いいってよ!」

「じゃあ誘ってよ」

「フレンド申請して...。ゲームとパーティーチャットに招待っと」


カズが招待するとGチャットの入室音がすぐに鳴った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る