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ほんの一瞬だけ無が会場を過ぎ去ると夜空で最初の花火が花開くように一気に観客含め全員が盛り上がりを見せた。いや、正確には桃太郎と彼らを応援していた人達以外。だがその戦いに悔しがりながらも拍手を送っていた。それは敵味方も無くしてしまうほどに良い戦いだったということだろう。そして会場の宙には盛り上がりの瞬間、スティックバルーンや飲み物、タオルや帽子などあまりの歓喜に観客が投げた物が舞った。
『決勝戦の激戦を最後はDB選手の吸いつくような見事なエイムが制し、Villain For Villain Japan cap優勝したのはOGRES FACE GAMEING!』
『いやぁー、見事な戦いでした』
舞台の上ではOFGと桃太郎の選手が互いを称え合っていた。モニター越しだったし優勝カップと司会の人の後ろ側だったから正しいかは分からないけどDB選手と話をするrin選手は少し泣いているように見えた。
「全然知らないゲームで全然知らないチームの対決だったけどそんなの関係ないぐらい最高だった」
内側で燃え盛る興奮の炎とは裏腹に声は意外と静かで冷静だった。そんなボクの視線先のモニターではOFGの選手が空高く優勝カップを掲げていた。激戦を制して無数のスポットライトに照らされながら称賛の拍手と熱い眼差しを浴びる。本人たちも達成感とかまだ冷めない興奮とかで高揚してると思うし、そんな状態で自分へ向けられた拍手を浴びるってどんな気分だろうか。どれほど気持ちがいいんだろうか。教室でもいつも1人、お昼も誰も来ない場所で1人、拍手を送る大勢の1人になることはあっても浴びる側になることはない。多分、その気持ちはボクが知ることのできないものなんだろうな。ボクの上にスポットライトは降り注がれず舞台の端で、主役に向けられたスポットライトのおこぼれすら届かない場所で劇を終えるのかもしれない。そんなことを考えてしまい少し複雑な気持ちになってると優勝カップの前にOFGメンバーが一列に並び3000万の数字が書かれた賞金パネルが授与された。司会の人は感想を興奮気味で話しながら一番右の選手の傍まで足を進める。
『KnBee《けんぴ》選手。まずは優勝おめでとう』
司会はお祝いの言葉を言うと右側に分け目を作った塩顔の選手にマイクを向ける。
『ありがとうございます』
KnBeeと呼ばれたその選手は顔に似合う爽やさを備えていた。
『この会場、放送を見ているほとんどにとってこの光景は予想できたかもしれないけど。こんな決勝戦は誰も予想してなかったんじゃないかな』
『そうですね。厳しい戦いでしたが何とか勝つことができてホッとしてます。それに彼らが桃太郎というチームで出場していることをこのファイナルが決まってから知ったのでその時は驚きました』
『個人的には最初から宣戦布告でもしてたのかと思ったよ。SNSのDMとかでね』
『いえ。残念ながら内緒にされてました』
『ということは対策とかは全くしてなかったってことだよね?』
『そうですね。なのでこのファイナルでの彼ら試合と予選での試合を昨日は沢山見ました。あとは個人のクセなんかの特徴をチームで確認したぐらいですかね』
それなのにあれだけの試合をするってやっぱりこのチームは物凄いのかもしれない。突然の逆境も撥ね除けるなんて主人公だな。
『それじゃあある程度厳しい戦いになることは分かってたわけだ』
『はい。恐らく彼が上がって来るだろうとも思ってました』
『本当は途中で負けてほしかったんじゃない?』
『否定はできないですね』
その返しに司会は笑みを零す。
『さぁ!続いては優勝を決めた我らがDB選手に話を聞こう』
司会は観客席を向きながらKnbee選手の隣に立っていた高身長の大人しそうな穏やかそうな顔のDB選手の前に進んだ。
『最後の1on1は見ているこっちも手に汗握ったよ。実際にプレイしてた率直なっ感想は?』
『緊張はしてたんですけど正直、あんまり覚えてないですね』
『それだけ集中してたってことだね。さて、この1on1は優勝もかかってたんだけどその他にもドラマがあったと思うのは僕だけじゃないはずだ。なんだって最後の最後、優勝を決める1on1が師弟対決だったんだから。そこに関してはどうかな?』
『確かにrin選手がFPSを始めたての頃によく一緒にプレイはしてましたが自分は何も教えてないので師匠なんて偉そうなものではないですよ。ですが彼女がよく知る仲で強いことも知っているので個人的にも負けたくはなかったです』
『なるほど。その気持ちが最後のとても素晴らしいエイムを生んだのかもしれないね。これぞDB!っていうプレイだったよ』
『ありがとうございます』
『それではVillain For Villain Japan cap。見事優勝を果たし名実共に日本一の座に
輝いたのは、OGRES FACE GAMEING!彼らに大きな拍手を!』
間違いなく素晴らしい戦いをして勝利を収めたOFGへ会場中だけじゃなく画面の向こうからも大きな拍手が送られた。そして決勝戦も終わりまだ興奮冷めやらぬ状態のままボクは帰路についた。これまでただただ1日を消費していたボクだったが何かを見てこれほどまでに興奮したのはいつぶりだろう。いや、ここまで胸を熱くさせられ活力が泉のように湧いてくるは始めてかもしれない。今ならサッカーや野球などを見て大興奮している人達の気持ちがわかる。
「Villain For Villainか」
ボクは家に帰ると真っ先にPCを起動してVillain For Villainを購入した。そしてダウンロードを待って夜にプレイすることにした。こんだけ時間が経ったのにまだ冷めやらぬ興奮を胸に秘めながら早速プレイしてみる。あれだけのプレイ、日本トップクラスのプレイヤー同士の試合を見たせいか自分が最強だと言わんばかりの自信に満ち溢れれいた。だが現実はそう甘くない。今まで軽く遊び程度でしかサッカーをやったことが無い人がプロの試合を見たからといっていきなりプロに近しいプレイができるわけではない。それは全てにおいて同じで例外なくボクも自信たっぷりにカジュアルをしたけどその自信ごとボコボコにされた。
「10戦して0キルかぁ。しかも特に何かしたわけでもないし。はぁー」
理想と現実の圧倒的な落差に思わずため息を零す。キルどころか操作すらままならず正直言ってBot以下だった。それを10戦で、いや。心の底では初戦から感じていた。
「でもそうだよな。今までFPS自体そんなにやったことないし...。――よし!まずは基礎中の基礎から頑張ろう」
どうやら今日貰った興奮と活力は凄まじいらしくまだやる気は充分。
「まずは操作とゲームを覚えよう」
そしてボクは楽園のような夢を見ていると叩き起こされて現実に戻された気分のままPvE【プレイヤーvsCPU】のモードを始めた。どうせ1人だしひとつずつちゃんと確認していく。
「えーっとまずはキャラクターはなんでもいいと。キャラによって何か差があるわけじゃないのか。ここはお楽しみ要素ってやつね」
ヴィランのソロPvEはとりあえずキャラと装備選択だけらしい。武器やアタッチメントアーマーなどを選択するがアーマーは強度によってスピードか変わるようだ。サブはハンドガンのみだがそこでも種類がある。それと武器のアタッチメントは事前に付けといた方がよさそう。PvPではアーマーは全員分あるけど武器と装備品は共有でチームでの数が限られてるらしい。だけどとりあえず今のボクがすべきは操作に慣れること。その日はひたすらPvEをした。結果は一番弱いCPUに勝ったり負けたり。5時間ぐらいプレイしたけどあまりうまくなった気はしない。だけど、どのキーを押せばどのアクションが出来るかは大分覚えた。覚えただけで上手く操作はまだできないけど。だけど1つだけ確実なのは、
「思った以上に楽しいなこのゲーム。思った以上に難しいけど」
そして次の日、授業を受けてる時もお昼を食べている時も朝からずっとボクの頭を支配してるのはヴィランだった。学校が終わるとヴィランしたさで真っすぐ迅速に家に帰り夕食までプレイ。そしてまたプレイするまでの間、ヴィランに関する動画を漁った。それからしばらくの間は平日は学校が終わってヴィラン、休日は一日中ヴィラン。まさにヴィラン漬けの日々を送った。
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