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それからも決勝戦というに相応しい激戦が繰り広げられた。キルを取っては取り返しラウンドを取っては取り返す。それは全くこのゲームを知らないボクでさえ夢中にさせ胸の奥を熱くさせてくれる試合だった。そんな戦いが続き7対4で1マップ目はOFGが先取。まだ1マップしか終わってないのに映画を一本見たような昂揚感で満たされていた。気づけば口を半開きにして夢中でモニターを見上げている。


『1マップ目から繰り広げられた激戦を制したのはOFG!TPさん。激戦をOFGが取ったわけなんですが勝因はやはり最初のラッシュですかね?』

『いやぁ、その後のラウンドはしっかり取り返して何とか体勢を立て直したと思うんですけどね。やはりOFGのピックマップというのが最後の一手を決めた気はしますね』

『次は桃太郎のピックマップなのでここで桃太郎は何としても取っておきたいですよね』

『そうですね。ここを落とすと0:2でマッチポイントですからね多少なりともメンタル的に追い詰められると思いますね』

『では次は桃太郎にとっては分岐点になるかもしれない第2マップです』


最初のマップ同様に2マップ目も取っては取られの激しい戦いになった。両者1歩も譲らない戦いだったが意地を見せるように桃太郎が5対7で勝利。これで1:1となった。それから3マップ目のランダムマップをOFGが取り先に王手をかけるが次で桃太郎が取り返し2:2。勝負は最終マップにまで持ち込まれた。どっちが勝ってもおかしくない。それはボクだけじゃなくて観客全員が感じていたはず。こういう時、選手は何を考えているんだろう。ふとボクの頭をそんな疑問がよぎった。自分のチームが勝つと固く信じているのかそれともボクらと同じくどちらが勝ってもおかしくはないと思っているのか。それとも何も考えていないのか。そんな状況を味わったことのないボクには分からない。


『さぁいよいよ最終マップ。あのOFGがこれほどまでに苦しめられると誰が予想できましたでしょうか?』

『本当にスゴイ戦いですね。見ているだけで汗をかいてきますよ。でもあれだけのメンバーが揃った桃太郎でやっとここまで追い込めると考えるとやはりOFGは恐ろしいですね』

『個人的にはこの大会のOFGはいつにも増して仕上がってるように見えますね』

『多分、調子的にも絶好調でしょうね』

『さぁ、そして運命の最終マップが始まろうとしております。泣いても笑ってもこれが最後』


そしていつの間にかのめり込んでいた決勝戦はファイナルマップに突入した。攻撃はOFG、防衛は桃太郎。1R(ラウンド)、OFG。2R、OFG。3R、桃太郎。4R、OFG。5R、桃太郎。6R、桃太郎。やっぱりどっちも譲らない。まるで殴り合うかのようにやられたらやり返してる。接戦になればなるほどにラウンドを取ったらファンは大盛り上がり。ボクはどっちを応援してるとかはないけど、そんなボクでさえもラウンド終了時にはテンションが上がる。そして7・8・9Rと連続でOFGがラウンドを取ると一気にマッチポイントに持っていった。


『おぉーっと!ここで6:3とOFG一気に優勝へと王手をかけたぁぁ!』

『桃太郎も連続で3ラウンド取るしかありませんね!ですがあのOFG相手に3ラウンド連続で取れる可能性があるのがこのチームのすごいところ!』


完全に実況と解説の人のボルテージはMAX。このまま終わるのか?でもなぜか。理由はないけどここで試合が終わる気がしなかった。これは単なる終わってほしくないっていう望みなのかもしれないけどそんな気がした。


『これほど決勝戦に相応しい戦いがあるでしょうか!王冠に伸ばしたOFGの手を叩き落とすかのように怒涛の3ラウンド奪取!10:10!勝負はついにフルマップのフルラウンドをむかえましたぁ!』

『意地でも優勝は渡さんぞという気持ちが痛い程に伝わってくる3ラウンドでした!ここまできてしまえば何が勝利の要因となってもおかしくないですよ!』

『さぁ最後のラウンド、OFGは得意とする攻撃側で勝利を奪い取れるのか!?対する桃太郎は防衛側で最後まで勝利を守り切れるのか!?運命の最終ラウンドスタートです!』


最後のラウンドはどちらかがキルを取る度にまるでラウンドを取ったかのように盛り上がった。1つまた1つとキルログが流れていく。ボクにはそれがラウンド終了のカウントダウンにも見えた。長いようで短い、短いようで長い。それは矛盾が交差する3分間。だけどこれが世界の真理であると教えるように時間は進み最後の時を向かえた。


『ここで桃太郎が1人落とされ両チーム残る選手は1人ずつ。勝負の行方はOFGのDB選手、桃太郎のrin選手に託されました。残り時間的にも解除デバイスを拾い設置する時間はありません。これは1on1になるでしょう』

『最後の最後に師弟対決とはドラマがありますね』

『OFG最強のエイム力を誇るDB選手か?それともその遺伝子を受け継ぐ唯一の弟子rin選手か。時間は残り30秒』


爆弾Aで待ち構えるrin選手に気づかれないようにDB選手は少し時間をかけて相手の場所を探っていた。だけどどっちも相手の場所は分かってない。残り25秒。しゃがみで近づくDB選手は爆弾Aの後ろで別の方向を警戒しているrin選手の横を突けそうだった。


『おっとこれはrin選手気がついていない。このままDB選手が目視すれば勝負決するでしょう』


そのまま終わるかと思われたが音なのか何なのか分からないがDB選手が見つけるより少し先にrin選手が彼の方を向き瞬時に爆弾の後ろに隠れる。数発の被弾をしたもののキルとまではいかなかった。


『残り20秒を切りました。この状況、DB選手の方が若干不利か?』


実況の言葉を最後に会場全てが緊張一色に染まり静まり返った。それは数えきれないほどの人が集まっているとは思えないほど静かで、映画館のように皆が真剣な眼差しでモニターを見つめている。だが映画館と違いここには張り詰める緊張感があり些細な物音ひとつ立てることすら憚れた。それだけでなくツバを飲む音も、強くそして速く脈打つ心臓の音さえも躊躇する程に静寂と緊張が会場を支配していた。皆が見つめる中、DB選手はオブジェクトを利用し揺さぶりをかけつつ撃っていく。rin選手も爆弾と隣接するオブジェクトを使い至る所から顔を出しては撃つ。そして残り8秒。タイムアップを待っているのかrin選手はオブジェクトに隠れる。一方、DB選手はスコープを覗きながらオブジェクトを離れた。距離的にも裏にいるrin選手を倒せるはず。モニターにはそのDB選手の視点が映し出された。どこから出て来るか出て来るかすら分からないrin選手を警戒してか時折、照準が動く。その緊張感はプレイしていないボクの手にも汗を滲ませた。爆弾とオブジェクトを中心に動くDB選手もrin選手が時間経過を待っていると読んだのか照準を側面へ向けしゃがみの高さにする。残り3秒。その時。爆弾とオブジェクトで出来たL字からrin選手が顔を出した。角度的にも爆弾に隠れ露わになっているのは顔の3分の2程度。隠れ続けると思わせて最後の勝負にでたのだろうか。だが、ボクが出てきたと認識している最中DB選手の照準は既に斜め上に移動し始める。そしてボクが認識を終えた直後、顔を出したrin選手の頭をDB選手の弾丸が撃ち抜いた。

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