第5話 姓名
結界を抜けた男子二人は、そのまま公園のベンチへと魔法少女達に案内された。
今まであまり考えてはいなかったが、時計を見ると結界に入った時間からそこまで経過していないのにハクトは気づく。
まだ太陽は完全に沈んでいなくて、ちらほらと犬の散歩の人の姿も垣間見える。
帰らなくていいのかな。オレンジだった子に聞くと、塾に行っている算段になっているという。
ピンク、水色、オレンジの魔法少女は、結界を出ると同時に服も髪色も元に戻っていた。
それでも各自の私服が変身時と同じ色だったから、区別がつくとハクトは思った。女の子達が黒髪だったから、白桃色の髪が目立つので再びタオルを頭に巻いた。
「……まずはお前らの話を聞かせろ」という、指図するようなコンの物言いにピンクだった女の子が噛みついた。
オレンジだった子が彼女をなだめて、魔法少女になった経緯を説明し始めた。
ハクトが所謂マスコットだと思っていた忍者カメレオンは、スガワラとかいう人間みたいな名前で、魔法の国の住人だった。
こことは異なる時空には、この世界とは違う場所があって、魔法と妖精が平和に暮らす国だとかいう説明だった。
その国には表と裏があり、裏の世界には恐ろしい魔獣という生き物が存在している。
いままで魔法の国のお姫様が、裏から出ないように抑えていた。それが別の出入り口を作って、人間の世界に侵入できるようになってしまった。
偶然にもその出入り口が、この街の何処かだとか。
魔獣を倒す力はお姫様しか持って無い上に、人間界に簡単に出入りが出来ない。
そこでお姫様は、自分の力を使える者をスガワラに探させて、見つかったのが彼女達だったのだ。
「……つまり、お前らの姫の不手際で、こんな事態になってんのかよ」
「何よ、その物言い!」
コンの言葉に噛みついたのは、勿論ピンクだった女の子だ。魔法少女だった時と同じサイドテールを揺らし、彼の方へと人差し指を向けていた。
「いや実際、その通りで御座るから、聖殿達にも迷惑を掛けているので御座る」
忍者カメレオン・スガワラの言葉に、ピンクだった女の子は振るいかけた手を下ろした。御座るが何処か鼻につく喋り方だ、とハクトは思った。
「長寺くんと嘉藤くんは、一体いままで何処に居たの?」
オレンジだった女の子の言葉に、ハクトとコンは顔を見合わせた。彼女達を信用して、全て話してよいものか。二人は互いの視線で、どうするかを相談しているようだった。
それでも、この少女は人間だった頃の二人を知っている。
一か八か賭けてみようというハクトの提案に、仕方なさそうに彼も頷いた。
どの道、コンが彼女達を攻撃せずに、力を誇示したのは情報を得る為だったのだ。
ハクトが自ら説明すると言ったのは、コンの口調だと再びピンクの女の子の反感を買いそうだったのだ。
それでもハクトは全てを知っている訳ではないから、自分の解釈だと前置きを入れる。
二人は喰われて魔物になった存在で、人間以上の力が使える。これ以上被害を出さない為に魔物を狩っていた、と説明したのは流石に暇つぶしとは言えなかったのだ。
そして自分達は、人間だった時の記憶が抜けている。そこまで話してみると、女の子三人は動揺するばかりだった。
「ね、ねぇ、スガワラ。今まで、食べられて魔獣になったってケースは?」
「ゼロで御座るよ。本当に嘘はついてないので御座るか?」
コンがスガワラに拳を向けかけたので、必死にハクトが食い止めた。このマスコットは魔法少女の相棒として、決定的に何かが欠けているような気がした。
「あのね、あのね。君は長寺マドカくんって名前で、同じクラスのイケメンの男の子」
オレンジの女の子がコンに笑顔を振りまいたから、黙って再びベンチに腰掛けた。何処か照れているように見えるのは、イケメンだと言われたからだろうか。
「それで、君は嘉藤ナカくん。同じクラスの可愛い男の子」
こっちもイケメンと言われると期待してたのか、彼女の言葉を聞いたハクトは分かり易く落ち込んだ。
この間、鏡を見たから女っぽい顔なのは本人も認識していたが。それを女の子に言われるのは、ダメージが大きいようだった。
「その上、ナカって……名前も女子みたいだし」
「……こっちなんてマドカだぞ」
二人の落ち込みようが予想外だったのか、慌ててオレンジの女の子が話を逸らすように言った。
「あ、あたしは大南ミライ。中学一年で! この二人も同じ!」
彼女達が中学一年生で、同じクラスだったのならば、コンもハクトも同い年という計算だ。
女の子三人とあまり身長が変わらない二人は、男子の中でも小さい方なのかもしれない。それを考えると、ますます落ち込みが激しくなったのだった。
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