綺麗な顔/お母さん!

綺麗にエンバーミングされた死体は

死体らしさがない

葬式という儀式に向けて飾られた

綺麗な顔だ


葬儀にきた親族は

綺麗に亡くなった……いい顔だという

私の知ってる母は化粧をしなかった

特別な時だけ化粧していた

あまりうまくなかった


これから赤い赤い火で燃えていくのに

母の顔は美しく彩られ

微笑むようだった

こんなに綺麗な母は見たことがない


綺麗な母は何も言わない

私の好きな母は、あんなに口うるさかったのに


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ターミナルケアの病棟に父子が出かけていき、病室に子供が飛び込むと

子供は「お母さん!」と声を上げた

私の知らない、お母さんと呼ばれた者は、納得して死ねたのだろうか

子供の声は明るく、お母さん!という声には強さがあった。


あの頃の自分も、お母さん!と言っていた気がする

もう、どれくらい前だろう


……看護師は母に、思い残したことはないかと聞いていた

するとそれまで朦朧としていたのに、意識をはっきりさせ


娘たちが幸せになっているなら……私に思い残すことはない。


そう母は言い切った。亡くなる数日前の話だ。




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