第10話 安岡刑事の訪問

僕は気に成っていた、新宿での事件について、檄達から話を聞く目的で関係者を集めることにした。安岡刑事は、何時もの出で立ちで公孫樹の家にやって来た。

「やあ、いらっしゃい。」

「随分と変わった作りのお宅ですね。」

「共同住宅ですよ。風変わりなね。」

彼女はしばらく家の様子を伺いながら、客間のソファーに腰を下ろした。

「ようこそ。」綾佳さんが、お茶を運んできてくれたのを機会に、僕も腰を下ろし、

「妻の綾香です。」と紹介すると、

「ええ、」と言う安岡刑事の声と

「一寸照れますね。」という綾佳さんの声が交互に聞こえた。

「何時、ご結婚なさったんですか。」

「ごく最近です。少なくとも前回お会いしてときはまだ独身でした。まだ、式とかしてませんが、法律上の手続きは完了しました。あ、それで僕の苗字は、山本から山下に変わりましたので、僕が婿に入った訳です。」

ほうと言う顔をしながら、お茶を飲み始めると

「残念、一足遅かったですね。ははは、冗談です」と一人で完結していた。

「本題に入る前に、少し僕の状況やこの家の住人の話をしておきたいと思うのですが?恐らく僕の身辺調査等はある程度なさっているかと思いますが。」

「ええ、一通り目は通してきました。」

「それなら多少なりとも話が早い、ご存知に様に、孤児として横浜の教会に引き取られてから、そこの養子となった訳ですが、同じような境遇の妹と姉がおります。今回の話は、妹が施設に居たときに共に兄弟として暮らしていた弟、名前を檄っていいますが、その子に関しての出来事についてです。一応事件の事についてはここの人間には口止めして有りますが、不都合があれば指摘してください。もちろん詳細については、状況を説明して内容を聞かせられない事について了解をもらってあります。」

「はい分かりました。上司、ああ両方のですが、一任されておりますので。」

「薫ちゃんは来てますか。」

「ええ、朝からベッタリよ。」

僕は、檄と薫の二人を呼んでもらった。相変わらずの長い銀髪をなびかせた檄と半ズボン姿の三芳薫が入ってきた。

「こっちが檄で、僕の妹の弟だから、弟でいいのか、と檄の許婚の三芳薫ちゃん、三芳百貨店のご令嬢です。こちら、安岡刑事、警視庁の刑事さんだ」安岡刑事は、ちょっと面食らったような表情で

「こちらが檄君で男の子?でこちらが薫ちゃんで女の子、ですね。」と確認すると、檄はわざとらしく、営業スマイルを浮かべながら、少女ぽい声で「刑事さんが来るて言うから、とっても緊張しちゃった、はあー」と

演技をして見せていた。その様子を見ていた、薫が肘で檄を小突くと

「なんだよ!うっせーな」と何時もの調子に戻ったのを見て、安岡刑事は一筋縄では行かない相手だと悟ったらしかった。

「檄が、茶化して申し訳ありません。」僕が言うべき言葉を、薫ちゃんが先に切り出して安岡刑事に詫びを入れた。

「私のこの姿は、祖父の指示で、身辺護衛対策の一環です。何度か誘拐未遂事件があり、一種の偽装工作と思ってください。激君の場合は、お金のためらしいですが。」薫ちゃんは何時もの様な明瞭とした声で話した。この二人の存在は対象的でいつ見ても面白い。そのアンバランスに最初に笑い出したのは、綾佳さんで、次に安岡刑事だった。

「ユニークな弟さんと許婚さんですね。でも二人とも可愛いですね。お二人をお子さんにするには、まだお二人は若すぎますか?」

「そうですね…」

檄が、三芳百貨店の特性クッキーをほおばり始めだしたので

「そろそろ本題に入りましょう。」僕は切り出した。事件についての詳細な内容は、薫ちゃんが例の口調で話し、檄はその補佐役となった。


安岡レポートの概略

檄の所在を見つけ出した三芳の関係者が、例の店に向かうと、同様な一行がすでにその店にいて小競り合いとなった。このとき、先行したグールプ中に当該者が居たらしく、事を荒立てないため、先行グループが一度引いた状況下、薫が檄を見つけてとびこんでいった。これを切欠に、二つのグループが乱入したので、店主が慌てて、地回りの用心棒を呼びつけた。そんな混乱の中、檄は薫が誘拐されそうだと勘違いして、二人で逃走した。用心棒たちと、二つのグループの乱闘により、店内の一部が破損し、暴力団抗争と勘違いした、一部警察の威嚇発砲が引き金と推定されるショックで当該者が心臓麻痺を起こしたと推定される。

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