3
「リナ、なんかキレイになったよね?」
「えっ?」
3人でお弁当を食べていると、突然、あきちゃんがそんなことを言った。
びっくりして箸から落ちた卵焼きは、ご飯の上に着地。ほっとしたのも束の間、今度は反対側から、ゆいちゃんの追撃。
「やっぱ、そうだよね! あたしもちょっと前から、思ってた!」
「そ、そんなこと、ないよ……」
恥ずかしさを抑え、今度こそ卵焼きを口に運ぶ。何となく、いつもより味が薄い気がした。
「いやいやいや。だって、お肌つるつるになったじゃない?」
「うん。ニキビが無くなって、お肌、きれいになってる。うらやましいー! なんでー?」
ゆいちゃんが、私の左頬を触りながら言う。最近、ニキビが出なくなった私とは反対に、ゆいちゃんはニキビが増えた気がするから、実は悩んでたのかもしれない。
「えっと……化粧品変えたから……」
「化粧品変えたの? なんで?」
「ニキビに悩んでるって知ったお母さんが、アドバイスしてくれて……」
「理由はそれだけ?」
「それだけって、なんで?」
逆にこっちが問い返すと、あきちゃんとゆいちゃんは顔を見合わせて笑って
「きれいになる理由と言えば……」
「やっぱり……」
「「恋よね!」」
声を合わせて言った。
「違う!」
思いの他大きな声が出て、はっとする。周りを見ると、みんなおしゃべりしながらお弁当を食べていて、私の大声に気付いた人はいないようだ。
「そーかなー?」
注目されなくて安心したのも束の間、2人はまだ、私の肌事情に注目したままだ。
「なんで急に化粧品変えたの?」
「絶対、理由あるでしょ?」
「だから、お母さんに勧められたから……」
「ほんとにそれだけ?」
「好きな人が出来たとかじゃなくて?」
「違うよ。絶対に違う」
今度は冷静に言い返せた。
きっぱりと否定したのが意外だったのだろう、2人は少し驚いたような顔をしている。
私は2人に構わず、ご飯を口に運ぶ。ご飯の甘味を感じながら、思い起こすのは宮嶋くんとのこと。
あれは、恋なんかじゃない。
ほんの少しきれいになりたい。そんな思いで小さな努力を始めた1ヶ月後。席替えをして、私は彼の隣になった。
ドキドキしながら座って、機会を待つ。彼が私の方を向いたら、もし彼と目が合ったら、勇気を出して話しかけてみよう。「私のこと見てた?」なんて、自意識過剰なことは聞かない。だけど、つまんない授業の話や先生の話、バレー部だっていう彼の部活の話も聞いてみたい。そんなことを思ってドキドキしながら、彼がこっちを向くのをずっと待った。
だけどその日、彼は1度も私の方を見なかった。
彼の目は、前の黒板と廊下側の席にしか向かない。授業が終わると、どこかに行ってしまう。何を、誰を、見ているのかは分からない。
だけど、初めから私を見ていなかったことは、はっきりと分かった。
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