「リナ、なんかキレイになったよね?」

「えっ?」

 3人でお弁当を食べていると、突然、あきちゃんがそんなことを言った。

 びっくりして箸から落ちた卵焼きは、ご飯の上に着地。ほっとしたのも束の間、今度は反対側から、ゆいちゃんの追撃。

「やっぱ、そうだよね! あたしもちょっと前から、思ってた!」

「そ、そんなこと、ないよ……」

 恥ずかしさを抑え、今度こそ卵焼きを口に運ぶ。何となく、いつもより味が薄い気がした。

「いやいやいや。だって、お肌つるつるになったじゃない?」

「うん。ニキビが無くなって、お肌、きれいになってる。うらやましいー! なんでー?」

 ゆいちゃんが、私の左頬を触りながら言う。最近、ニキビが出なくなった私とは反対に、ゆいちゃんはニキビが増えた気がするから、実は悩んでたのかもしれない。

「えっと……化粧品変えたから……」

「化粧品変えたの? なんで?」

「ニキビに悩んでるって知ったお母さんが、アドバイスしてくれて……」

「理由はそれだけ?」

「それだけって、なんで?」

 逆にこっちが問い返すと、あきちゃんとゆいちゃんは顔を見合わせて笑って

「きれいになる理由と言えば……」

「やっぱり……」

「「恋よね!」」

 声を合わせて言った。

「違う!」

 思いの他大きな声が出て、はっとする。周りを見ると、みんなおしゃべりしながらお弁当を食べていて、私の大声に気付いた人はいないようだ。

「そーかなー?」

 注目されなくて安心したのも束の間、2人はまだ、私の肌事情に注目したままだ。

「なんで急に化粧品変えたの?」

「絶対、理由あるでしょ?」

「だから、お母さんに勧められたから……」

「ほんとにそれだけ?」

「好きな人が出来たとかじゃなくて?」

「違うよ。絶対に違う」

 今度は冷静に言い返せた。

 きっぱりと否定したのが意外だったのだろう、2人は少し驚いたような顔をしている。

 私は2人に構わず、ご飯を口に運ぶ。ご飯の甘味を感じながら、思い起こすのは宮嶋くんとのこと。


 あれは、恋なんかじゃない。




 ほんの少しきれいになりたい。そんな思いで小さな努力を始めた1ヶ月後。席替えをして、私は彼の隣になった。

 ドキドキしながら座って、機会を待つ。彼が私の方を向いたら、もし彼と目が合ったら、勇気を出して話しかけてみよう。「私のこと見てた?」なんて、自意識過剰なことは聞かない。だけど、つまんない授業の話や先生の話、バレー部だっていう彼の部活の話も聞いてみたい。そんなことを思ってドキドキしながら、彼がこっちを向くのをずっと待った。

 だけどその日、彼は1度も私の方を見なかった。

 彼の目は、前の黒板と廊下側の席にしか向かない。授業が終わると、どこかに行ってしまう。何を、誰を、見ているのかは分からない。


 だけど、初めから私を見ていなかったことは、はっきりと分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る