第61話 好きか嫌いか


「こっちゃん、その職場、好き?」



 ズキン、と胸が痛む。


 自分ならともかく、他人にそう言われると、改めて痛みを感じるから不思議だ。


「ニシコ?」


「こっちゃんにその会社、合わないんじゃないかなぁ」


 そりゃウチもそんなすごい所じゃないけどさ、とニシコは続けた。


 ——好きじゃない。


 それは間違いないのだが、それ以上の事が思い浮かばない。


 ニシコはズズッと音を立ててアイスコーヒーすすった。


「ウチは大きなショップじゃない。けど何とか好きな事でやって行けてるって自信はある。……まだこっちゃんを雇えるほど儲かってないけどさ」


 それでも、とニシコは続けた。


「この前のこっちゃんオリジナルのやつ、評判良かったんだよ! だからもしこっちゃんが続けていきたいならさ、協力したい……それに、きちんと報酬を受け取って欲しい」


 ニシコは力強くそう言うと、頭を下げた。


「ごめん、ウチの会社がもっと大きければすぐに雇えるんだけど」


「ニシコ! そんな事言わないで。十分嬉しいよ」


 コトコの声にニシコは顔を上げた。


 コトコはコトコらしく控えめに——しかし満足げに微笑んでいた。





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る