第43話 動物 2

 コトコは幼い頃、親がどこからか貰ってきた鴨のヒナを育てたことがある。


 ヒナ特有のふわふわの茶色い羽毛に、黄色い小さな足がちょこちょこ動く様は大変に可愛らしく、まるでオモチャのようであった。


 バケツに水を張って、そこに放してやるとぱちゃぱちゃと水を掻いて上手に泳ぐ。


 コトコはそれを飽きずに眺めているのが好きだった。


 ある日。


 親がいない隙に、コトコはヒナを水に浮かべようと思った。


 寝ているヒナを起こすと、寒い風呂場に用意したバケツに張った水の上に浮かべる。


 ヒナはいつも通りに水を掻いてくるくると泳ぎ出す。


 ——そこまではよかった。


 突然、目に見えてヒナは失速する。沈みかけたのを慌てて掬い上げる。


 コトコの手の中で、濡れそぼったヒナは動かなくなっていく。時折目を瞬かせていたが、それも止んだ。


 コトコの中で何かが壊れた。


 それ以来、生き物は飼うまいと心に決めている。



 つづく



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