第42話 紙コップと涙

 コトコは動けない。


 いつものようにただ紙コップにお湯を注ぐだけなのに、指が震えた。


 それでも「動け、動け」と手を動かしたのは、誰かに見られたらまた馬鹿にされるという恐怖と、せっかくのティーパックを無駄にしたくないという貧乏根性だった。


 ただ、どうしようもなく涙が止まらない。


 コトコは出来上がったお茶をそこに置くと、人目を憚る様にトイレに駆け込んだ。昼食時は使う人も無く、無人だった。


 ひとしきり声も出さずに涙を流すと、今度は流れる涙を止める事に必死になる。


 お昼休みの後半は化粧室での身繕いが始まるからだ。


 誰かが来る前に——涙を止めて、普通の顔を作らなければ。


 それだけを考えて、後から後から溢れてくる涙を拭う。そうしながらも、コトコは「涙ってやけに温かいな」とふと思った。




 つづく





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