第41話 シール

 ブレーカー事件は尾を引いた。

 あの夢占いが当たったかのように、コトコは蜘蛛の巣に絡め取られた羽虫のように、息が詰まる日々が続いた。


 身じろぎするのさえはばかられるくらい、コトコは動けない。


 コピー用紙一枚を取るのでさえ、周りから監視されている気がして気を遣い、後ろから囁き声が聞こえるたびに神経を尖らせる。


 ——私の事じゃない、私の事じゃない。


 呪文の様に、噂されていると思い込まない為に同じ事を胸の内で繰り返す。


 地獄の時間を過ごして昼休みに給湯室へ行く。毎月のお茶代を払っているので、お茶くらい飲まなければ損だ。


 コトコはその一心で嫌な記憶のある給湯室へ入る。


 幸い誰もいない。


 ほっとして緑茶のティーパックを一つ取ると、自由に使える紙コップへ放り込む。


 お湯を入れようとして手が止まる。


 ポットの上にテプラで作った黄色いシールが貼ってあった。




『レンジ使用中は再沸騰しない事!』




 コトコの目から一粒、雫が落ちた。






 つづく

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