第20話 マリエ 3

 思えばコトコが授業をサボったのはこの時が初めてである。


 話し下手なコトコは真理江のあとから後から湧き出てくるようなお喋りを聞くばかりになってしまったが、案外バランスが取れていたのかもしれない。


「煙草は?」


 吸うかと聞かれて、コトコは「吸わない」と答える。


「ふーん」


 と返されて、急に罪悪感に囚われる。嘘でも吸うと言えばよかったか?いや、こればかりは無理だ。


 真理江はコトコの知らない場所にもズカズカと入っていく。飲み屋の横丁でも平気だ。ホルモン焼きの煙が上がる店に無理やり連れて行かれたが、予想に反して美味しかったのを覚えている。


 ホルモン屋はもう無く、真理江とはそれきり遊びに行くことも無かった。


 それでも、あの瞬間は友達だったと思うのだ。

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