第7話
気がつくと、もう夜が明けかかっていました。僕は二軒の家にはさまれた、まだ家の建っていない空き地に倒れていました。あわててとびおきて、あちこち一生懸命にさがしましたが、あの白い家は、どこにもありませんでした。そのうちに、人が起き出してくる気配がしてきたので、僕はやりきれない気持ちのまま、しかたなく家に帰りました。
僕は、あれは夢だったのだと、自分に言い聞かせようとしましたが、あの時のことは、どうしても忘れることはできませんでした。そして、とうとう毎日あの日の道すじを歩いて通うようになってしまいました。やりきれない思いを抱いたまま、ずっとその道を歩き続けて、ちょうど一年たった時のことでした。気がつくと、あの空き地に杭がうたれていました。家が建ってしまうのです。工事はどんどん進んでいきました。僕は夢がこわされてしまうのがつらくて、その家の前を通らなくなりました。
半年ほどたって、そこを通りかかると、あの白い家が建っていました。立ちつくしている僕の耳に、あのピアノの音色が聞こえてきます。僕は必死の思いで、ふるえる指でベルを鳴らしました。そして祈るような気持ちで、ドアの前に立ちました。
ピアノの音がやみました。パタパタと足音が聞こえてきます。
ドアが、ゆっくりと開いてゆきます。
そして、あのひとがほほえんでいました。
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