第3話

 すると、まったく思いがけないものが目に入ってきたのです。それは、まっ白なガチョウでした。

 まっ白なガチョウが一羽、街灯にぼんやりとてらされて、石のへいの前に立っているのです。昼間ならともかく、もう夜中です。いったいこんなところで何をしているんだろうと、半分あきれながら見ていると、もっとふしぎなことがおこりました。

 ガチョウは僕を見つめると、まわれ右をしてゆっくりとへいの中に消えていったのです。僕は思わず目をこすりました。だって、そこはただの石のへいです。ガチョウがくぐりぬけられる穴なんて、どこにもないんです。

 僕が唖然として立っていると、そいつはまた石のへいの中から、すうっと出てきました。そして僕のことをしきりに見つめています。なんだか呼ばれているような気がして、またガチョウがへいに向かって歩きだすと、僕もふらふらとついていきました。

 ガチョウが消えたあたりに足を踏み出すと、一瞬ふらっとめまいがしました。ふっと我に帰ると、そこは二軒の家のへいにはさまれた狭い道でした。僕の前をガチョウが歩いていきます。

 「なんだ、こんなところに出てくるのか。」

 今考えれば、入口などなかったはずなのに、そんなことはすっかり忘れてしまって、僕はその道を歩きはじめました。

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