第27話 カスプ・カタストロフ


「どうして我々がこんな圧力を受けなければならないのか…?」 


「我々はただ祖国を守っているだけなのに」


「残存兵力の大半を失い、あろうことかとうとう核兵器まで使用してしまった…」 


大統領のつぶやきに、参謀らしき男の一人が歩み寄る。


「あれで良かったのです大統領。あれが正しい選択だったのです。これで敵は、我々が核兵器使用に躊躇ちゅうちょしないと認識した筈です。我が国への侵攻も慎重となるでしょう」


『そうはなりませんよ!国連軍は侵攻を止めたりはしません』 通信システムに侵入した直人が叫んだ。居るはずの無い第三者の声に、大統領と参謀は驚き地下司令室の高い天井を見上げた。

「誰だ!?…守衛、侵入者がいるぞ!」 自動小銃アサルトライフルを持った守衛が数人走り寄り、やはり天井を見上げあたふたとしている。


『探しても我々に実体はありませんよ!我々はこの戦争を止めにきた者です。危害を加えるつもりはありません。どうか安心して私の言うことに耳を傾けてください!』

『…今、貴国と対峙している国々の真の主導者は、この国のレアアース資源を欲しがっています。これは最先端の電子機器には欠かせない鉱物資源なんです。そこで貴国に隣接した国に、かつて領土であったという根も葉もない歴史的大儀を理由に戦争を仕向けて、それに参戦をする形で、その資源の利権を手に入れようとしているんです。この主導者は強大な発言力と有り余る富を持っています。この人物の挑発にだけは乗らないでいただきたいのです!』


「大統領、こんな怪しい奴らの言うことに耳を貸しては駄目です!我々を混乱させる為の陽動作戦かもしれません。一度我々が核を使用したからには、敵も核を使い報復してくるに違いありません。敵国とそのすべての同盟国に対し早急な先制核攻撃を提案します!」


大統領は厳しい表情で参謀に向き直り何度も頷いた。


『待ってください!先程貴国から核攻撃を受けた国連軍は、すべて遠隔操作のマシーンだけです!彼らはあなたがたが核兵器を使用することを想定し、生身の兵員は全て被害を受けない後方まで退避していました。死傷者は一人もいなかったのです!この戦争をやめるのは今なんですよ!ひとたび非戦闘区域を巻き込んだ核戦争になれば、罪の無い世界中の多くの人々が犠牲になります!それには、あなたがたの家族や友人も含まれているんですよ!』


二人の顔が一瞬歪んだ。しかし、それはほんの一瞬だった。


「すべては国家の為なのだ!」 大統領の言葉に参謀も大きく頷いた。


『どうか思い留まって下さい!』今度は尚子が叫ぶ。


「兵の殆どを失った今、我が国を守る術はもう核しか無いのだ」


「大統領、先制攻撃は一刻を争います!ハイアラート発動を要請します!」


ハイアラートが発動されれば、ICBM(大陸間弾道弾)は15分で発射可能となる。

大統領は意を決したようにマイクのスイッチを入れ、各方面にリンクしたディスプレイに向かい声を発した「ハイアラート!ハイアラート!これは訓練ではない!繰り返す、これは訓練ではない!」 敵国、そしてその全同盟国にロックオンされたICBMが発射体制へと起動を始めた。


取つく島もなく、直人も尚子も言葉を失った。

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