第25話 窮鼠猫を噛む

  ズドドォ〜ン…タタタタタタ…ズドドォ〜ン…乾いた機銃の音と凄まじいロケット弾の爆発音。“愛”の操作する戦闘ロボットが所属する最前線の連合国部隊は、相手国軍の猛烈な抵抗に遭っていた。中央突破の為に組まれた紡錘陣形の切っ先が壊滅しかけている。日本国有のスパコンからネットを通じ、尚子と夫の直人も“愛”と共にいた。もちろんそのことは、日本政府機関には知る由もない事で、生前の直人が独断で開発したシステムプログラムにより、直人も尚子も電子的に存在しこの場にいるのだ。

 

『いかんな…やばい』 直人が呟いた。

 

『凄まじい反撃ね…このままでは後退しないと…』 尚子が言いかけた。


『いや…このままでは勝ってしまう』


『えっ?どうして…?』

 劣勢に陥っている同盟軍がどうして勝つのかさっぱり分からない尚子。


『1時の方角10マイル。高度100をよく見てごらん』


 薄黒い雲のような影が相手国軍に向かい接近している。

 連合軍の放った数千機の超小型ドローン兵器“キラービー”だった。


『“キラービー”は、ミツバチほどの大きさです。兵士や兵器の中にまで入り込んで自爆するようプログラムされています。僕たちの妨害で業を煮やした連合軍が奥の手を使ったようですね…。僕にあれをコントロールする回線はありません。各機単独のAIシステムを搭載していて、それぞれが攻撃目標に潜入、自爆します。一度放たれたら僕たちにも止めることは出来ません』 “愛”が軍事機密文書にアクセスして内容を説明した。


『そんな恐ろしい兵器を…?』尚子は絶句した。


『どんな兵器も殺し合いに使うことに変わりはないさ』直人は冷めた口調で呟いた


“愛”達の操縦する戦闘ロボットが誤射を装い相手国軍に向かう “キラービー”を数百機は撃墜したが、数千機もの標的には殆ど効果はなく、攻撃を掻い潜った機体は急降下して相手国軍の中に散らばり消えた。数秒後、爆竹が弾けるようなパパパパパパンと小さな爆発音が聞こえると、もわっとした白い煙が相手陣地のそこかしこに立ち上り、それまで激しく攻撃をしていた相手国軍は完全に沈黙した。


『全滅だな…。困った事になりそうだ…、お相手さんを追い詰めれば追い詰めるほど核兵器の使用が懸念される…。こうなったら、直接お相手さんの司令部に乗り込んで、状況を確かめるしかあるまい』 


 直人が厳しい口調で言った。と、その時“愛”から警告音が響く。キュイキュイ…キュイキュイ…


『直人さん!アラートです!上空1000ⅿ、SRBM短距離弾道ミサイルです!』


『遅かったか…あれはおそらく核搭載だ』


 青い空に白い一本の航跡が真上に差しかかっていた。“キラービー”での攻撃の直後、地上からの反撃を恐れた連合国軍の発したジャミング(妨害電波)が しくも自らの目を暗まし、上空のミサイルの発見を遅らせてしまったのだ。


 次の瞬間、連合国軍は動かなくなった敵国軍もろとも凄まじい閃光に包まれ、直後、巨大な熱線と衝撃波の火球の中に消えた。





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