第24話 ひとしずくの時間
愛斗は、毎朝6時に寝泊まりしているオフィスを出ると、ロボットアームの材料になりそうな空き缶や家電の廃品を探し、8時にはシュミットじいさんの家に来ていた。そして、シュミットじいさんから言われるままに買い物や庭の手入れ、洗濯、昼食の準備に、家中の掃除と夕食の準備をこなし、やっと自分の時間が持てるといった家政婦のような生活をしていた。
パーゴラの下、三畳のスペースでの時間は限られている。もう日も暮れ、生前の父から習って作ったイオン電池に投光器を繋いで、それに照らされた中でロボットアームの材料の整理をする。一息ついて、ポケットに入れてあった介助AI機器を耳に差した。
「音楽でも聴きたいな~」 愛斗が介助AI機器にリクエストすると…
『愛斗さん、お疲れ様です。何を聴きますか?』 標準のAIシステムに話しかけたつもりの愛斗の耳に、聴き慣れた声が入ってきた。
「えっ?愛くん!?」
『手も足も出ませんが、お手伝いに来ました』
「あはは…、助かるよ。若い頃聴いていた2020年代の懐メロをメドレーでかけてもらえるかい?」
『はい!ヒットメドレーを再生します。あ、ついでにオフィスのファックスにロボットアームの設計図も送っておきますね』
「お?さすが、仕事が早いね」
『はい!尚子さんと作りましたから要領は分かってます』
「頼りにしてるよ、愛くん…まさか君とロボットアームを作ることになるとはね」
『はい!楽しくなってきましたね、愛斗さんの作るロボットアームは、きっと愛斗さんらしく動きますよ?あはは…』
投光器に照らされ介助AI機器に指をあて話している愛斗の姿を、庭に面したリビングの大窓越しにシュミットじいさんが腕組みをして眺めている。そんな事には気付きもせずに愛斗は“愛”と談笑しながら、手際よくロボットアームの材料になるガラクタの分別整理を進めていた。
「ところで…母さんたちはその後どうしてる?」 愛斗の中ではAI化した母親も父親も、普通に生きていると感じられているのだ。
『はい!元気ですよ、お二人はとても仲良しでいらっしゃいます』
「あはは…そうなんだ…。紛争地帯の解決に行くって言ってたけどそっちの方は?」
『はい…それなんですが、困った事になりまして…。以前解決した時のフェイクがバレちゃいまして、また両国は戦時下に戻ってしまっています。僕もまた戦闘ロボットを今現在も操作している次第でして…』
「そりゃあ大変じゃないか!大丈夫なの?」
『はい…なんとか犠牲者が出ないように他のAI仲間とも協力して戦闘ロボットやサイバー妨害で頑張っていますが、前よりも戦況は酷くなっていますね…劣勢の相手国が核兵器を使い兼ねない状況になっています。それだけは避けなければなりません。一度核兵器が使用されれば両国共に核の応酬になりますから…』
「なんということだ…それはなんとかしなきゃ…」 作業の手も止まってしまい愛斗の表情は曇った。「僕に何か出来ることがあれば良いけど…」
『愛斗さん、今は僕たちに任せて下さい。愛斗さんにはこの介助AI機器を完成させ、世界中に広げる大切な役目があります。それが世界平和に繋がっているんですよ!』
愛斗は考え込んだように暫く黙ったが
「うん…わかったよ。父さん母さんを宜しく頼むね!」 と唇を噛みつつも作業を再開した。
ひとしきり作業をすると、拾い集めてきた材料の整理もできた。あまり遅くなるとシュミットじいさんにも迷惑がかかると、愛斗は身の回りを掃除しシュミットじいさんの家に向かって一礼するとオフィスへと帰路についた。
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