第8話 プロジェクト始動
『尚子さん、おはようございます。そして、新年明けましておめでとうございます』
「おはよう…そうね、年越ししたのね。愛くん、明けましておめでとう!」
『血圧125/85、脈拍86、体温36.2、…今日も良好ですね』
「いつも、ありがとう愛くん」
『どういたしまして、尚子さんが元気だと、僕も嬉しいです』
一人息子の
「愛くん、あなたにお年玉をあげたいんだけど…手渡せないから困ったものね〜。
『あはは、ありがとうございます…でも、僕、お金は要らないです』
『…そうですね~、欲しいものと言えば…僕、尚子さんと同じように身体が欲しいです。身体があれば、もっと尚子さんを守れますから』
「身体って…ロボットみたいな?う〜ん…でも、そんな高価な物買えないわ」
『いいえ、買うのではなく、尚子さんに作って欲しいんです』
「え〜!?ロボットを?私が?」
『はい、と言っても全身じゃなくて良いんです。両腕さえ作って頂ければ、後は僕が自分で作りますから』
「私に出来るかしら…?材料だって買わなきゃだし…」
『心配要りませんよ。出来る限り有る材料で作りましょう!作り方は教えますから』
「そう?なんだか面白そう!出来るような気がして来たわ!私、若い頃、家電メーカーの工場ラインで働いていた事があるの。ハンダ付けは得意よ!」
こうして尚子と“愛”の、介護用ロボット制作プロジェクトが開始されることとなる。
スイスの首都ジュネーブのジョルジュ・ファボン通りにある、オフィスビルの一室。
午前0時、一人デスクのパソコンに向かう愛斗がいた。 日本を後にし、スイスに単身赴任してきた愛斗は、到着して間もなく着いた介助AI機器のケースの山を、一つずつ高齢者の住む家を訪問し、モニタリングを依頼して回る生活をしていた。疲れ果てオフィスに戻って来ても宿泊するホテルやマンションを借りる予算は無く、オフィスの隅に置かれたソファーが愛斗のベッド代りになっていた。
「新年か…日本は今頃、元日の朝だなあ」
パソコンには、モニタリングしている日本の介助AI機器の情報が刻々と入って来ている。
[AI-M1-
[Mission-42始動]
「母さんの愛くんも、次のステップに入ったか…」
「母さん、うまく作れるだろうか…?」
通販サンプルのように配布された介助AI機器は、モニタリングと称してはいるが、実際はミッションの本番そのものであった。このミッションが介助AI機器モニタリングの最終目標であり、これが完遂出来れば、介助AI機器の開発は成功とされるのである。 国が出来ない介護用ロボットの制作、普及を、介護を受けるであろう本人にさせるのが、このプロジェクトの本当の目的なのである。
「明けまして、おめでとう…母さん」
愛斗は窓際に立ち、夜空の星を眺めながら、遠く日本に暮らす母に想いを馳せた。
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