第4話 お買い物

 季節は秋、少し暑さも和らいで来たので、尚子は外出をする事にした。

 高台の尚子の家から坂道を下り、路線バスで20分程走ると、この街のメインストリートに出る。そこにはショッピング・モールや様々な商店が立ち並んでいるのだ。

 目的はパソコンである。

 

 最近になって“愛”が何かに付けて勧めるのだ。

『パソコンは、最新情報が手に入りますし、スマートフォンとも連携できますよ?それに、ボケ防止にもなりますし…』


「失礼ね!まだまだボケませんよ〜」


「でも…パソコンなんて私にできるかしら…」


『大丈夫!僕に任せてください…手取り足取り教えますから』


「って…手も足も出ないんじゃなかったぁ?」と尚子は笑った。


 バスの窓側の席で話す、尚子と“愛”。

 60歳以上は、無料で乗車出来る一日に二便走る路線バス。

 車外には、田園風景が流れていた。


 程なくバスは賑やかな街並みに差し掛かり、メインストリートを右に折れると停留所に到着した。そこからは愛の案内で歩行者道を少し歩くと、家電量販店に辿り着いた。

 

 ダダッ広い店内の陳列棚には、様々な家電が並び、更に奥に進むとパソコン売り場が見えてきた。 尚子が売り場へ進むと 、待っていたかのように、店員らしき男性が近づいて来た。

「お孫さんへのプレゼントですか?」 擦り手で話しかける。

 

「いいえ、私が使うのよ?」そう尚子が返すと


「え〜!ご本人様が、お使いに?」 と、店員は意外そうな顔で続ける。


「これまでに、パソコンのご利用は…?」


「初めてなの…どれがいいかしら?」


「それでしたら…」

 店員は高価な大容量パソコンの方に尚子を案内した。


「こちらなど、機能満載ですよ〜!?」

 それを聞いていた“愛”は尚子に助言した。

『尚子さん…この人、必要以上に高い物を勧めていますよ?』


「え〜!そうなの?どうしましょう…」

 店員は、自分に話されたと勘違いしているようで、話し続ける。尚子の耳に装着された機器、“愛”の声は、外には漏れないのだ。

「はい!買うしかないですよ!お買い得ですよ〜!」

 

『大丈夫です…僕の言う通りに言ってみて下さい』“愛”が被せて言った。


「分かったわ」

 尚子は、愛の言う専門用語だらけの言葉を、そのまま店員に話した。 店員は尚子が話す間、まるでキツネにでも摘まれたような顔で、首をフワフワ縦に振っていた。

「…なので、このグレードを…。光ケーブル、Wi-Fiも設置済みなので、ご心配なく…届けて設置して下されば、設定もこちらでしますので…」

 

「あ…ハ…ハイ!承知しました!」

 店員は、尚子が示した適正なパソコンを用意し、深々とお辞儀をすると

「大変失礼しました」と言い、サービスに、外付けハードディスクまで付けてくれるという…“愛”の教えた専門用語の数々が、余程効いたようである。


 売買契約を済ますと 「今後共、ご贔屓に宜しくお願い致します!」と、店長らしき人と共に、玄関口まで見送りに来た。


「…あの人達…まだ見送っているわよ?」


『はい…業界でしか知り得ない事も、沢山言っちゃいましたから…』


「え〜!そうなの〜!?」

 尚子は、大丈夫かと振り向いて、店の方を見た。


 まだ見送っている二人が、そんな尚子に気付き、また深々とお辞儀をした。

「愛くんって…」尚子は肩を竦めて笑った。

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