第4話「猫とコパル」
空から小さく光る冷たい何かが僕の体の体温を奪うように体にまとわりついた。そんな中、薄暗かった辺りがさらに薄暗くなった。顔を上げてなんだろうと言った瞬間、僕の体が温かい何かに包まれた。
「お帰りなさい。」
机の上に散らばっていた書類を整頓していると、町へと買い物をしに出かけていたティーカー・シーが全身を濡らして帰ってきた。
「ただいま。」
ニッコリと笑顔でティーカーは言うと、その姿のままで部屋の奥へと掛け込んで行った。そんな父の姿に首を傾げながらコパルは急いでバスタオルを取りに行った。
「一体、如何したんですか?」
何かを大切に抱きしめているそんなティーカーの頭の上に被せるようにしてタオルを渡した。すると、ティーカーは満面の笑みを顔に浮かべながらコパルの方を向き直った。
「町の中を歩いていたらね、雨に濡れてるこの子を見つけたんだ。」
両手で真っ黒な子猫を優しく抱きしめながらティーカーはコパルに見せた。子猫はコパルを見ると声を震わせながら鳴いた。
「コパル、この子をこの家に迎えても良いかな?」
少し心配そうな顔をしてティーカーは言った。猫とティーカーの顔を交互に見た。
「お父さんが居ても良いというのなら僕は反対しません。」
すると、ティーカーは子供の様に無邪気な顔をして子猫を抱きしめた。
家の中を掃除していると足に何かが纏わりつくのを感じた。コパルは視線を足元に向けると、先日家に来たばかりの黒猫が遊んで欲しいのか体を擦り付けているのが見えた。
「可愛い・・・・。」
口元に笑みを浮かべてしゃがみ込み、そんな黒猫の頭を優しく撫でた。思ったよりも黒猫の毛並は柔らかかった。黒猫は気落ち良さそうにまた鳴き声を上げた。
「コパル!デイジーを見なかった?」
猫じゃらしを手に持ちながら、部屋の奥からティーカーが出てきた。それと同時に黒猫はティーカーを威嚇した。
「おかしいな・・・。」
涙目になりながらティーカーはコパルの膝の上に乗っているデイジーを見つめた。
「如何したんですか?」
口を尖らせながら詰まらなさそうに猫じゃらしを左右に振っているティーカーを見た。その時、デイジーは大きな欠伸をした。
「猫って物静かな人が好きだって聞いたんだけど・・・あれって嘘だったのかな?」
そう言いながらもティーカーはデイジーに向かって手を伸ばすが、勢いよく噛みつかれた。その姿はまるで好奇心旺盛な子供が猫と触れ合う仕草と似ていた。
「無暗に噛んではいけません。」
そんな光景を見て口元に笑みをこぼしながら、デイジーの鼻を軽く突いた。それに答える様にデイジーは鳴き声を上げた。
暫くするとデイジーは遊び疲れたのか、眠ってしまった。僕達は起こさない様に、静かに部屋から出て行った。
今まで明るかった辺りが黒い絵の具に塗りつぶされたかの様に暗くなっていた。何も見えないという現状に恐怖を抱いた。
「誰か、誰か・・。」
僕は無我夢中でそう叫び続けた。すると、小さな明かりを手に持った大きなあれが現れた。それは僕に向かって何かを伸ばした。それに向かって走り寄ると、また僕の身体が暖かいあれに包まれた。それを心地よく感じながら僕は喉を鳴らした。
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