第33話 雨の日、あなたに会いたい

 まどかは、またあの公園にいた。最近ここが彼女の憩いの場所になりつつあった。あれからまどかの家の環境も悪くなり学校も欠席がちになった。すでに数ヶ月の間制服に手も通していない。部屋の壁に飾り物のように吊るされているだけであった。もはや単位が足りなくて留年する事は確実であろう。しかし、今の彼女にとってそんな事はどうでもよくなっていた。


「ま~どか~」睦樹とよく一緒に座って話をしたあのベンチに一人座っていると、突然昌子が背後から飛びついてきた。彼女は真面目に学校の単位を習得しているようである。彼女はすでに睦樹の事は割りきっている様子であった。


「昌子ちゃん……、久しぶりね」なんだか色々な事があり、その出来事はあどけない少女であった、まどかの雰囲気をすっかり変えてしまったようだ。今はなんだか陰りのある女の雰囲気を身にまとっていた。


「なんだか、不良みたいになったね……、まどか、ちょっとでいいから学校においでよ。みんな心配しているよ」昌子はスカートの裾をまとめながらまどかの隣に腰をおろす。そろそろ夏も終わり衣替えの季節のようだ。昌子はブラウスの上におろし立てと思われる紺色のジャケットを羽織っていた。


「私はもう学校へは行かない……。そんな事より……」まどかは何かを思い詰めたように、昌子に詰め寄った。その表情は真剣そのものであった。


「昌子ちゃんが前に言っていた『タイム・リープ』って、時間を越えて昔へ行くことは出来ないの?」まどかは真剣な顔で昌子に質問する。その言葉を聞いて昌子の顔色が一変する。


「な、なにを言い出すの!」さすがに昌子も驚いたようだった。まさかまどかがこんな事を言い出すなんて予測していなかった。


「前に言ってたじゃない!昌子ちゃんは、『タイム・リープ』で、睦樹さんと同級生だった頃からこの時代に飛んできたんでしょう!じゃあ、私だって、昔の睦樹さんに会いに行きたい!」その瞬間、昌子の平手がまどかの頬を叩いた。叩かれた頬の痛みを噛み締めながらまどかは、昌子の顔を睨みつけた。そこにはまどかの頬を叩いた手を悲しそうに握りしめる昌子の姿があった。


「ふざけたこと言ってるんじゃねえよ!!」それは、今まで昌子が見せたことのない姿だった。昌子が本気で怒ったところを、まどかは初めて見た。

 まどかは、叩かれた頬の痛みを噛みしめながら、昌子の顔をもう一度睨み付けた。その先にある昌子の目からは、大粒の涙が溢れていた。


「そんな事を軽々しく言わないで……、知っている人が誰も居なくなる事が、好きな人を失う事がどんなに辛い事なのか……、今のまどかちゃんなら誰よりも解るはずよ。それにあなたが居なくなって悲しむ人だっているんだよ」昌子はまどかをゆっくりと抱きよせながら優しく呟く。その、言葉を聞いてまどかは、胸が痛くなった。


『私には解る……、ああ、昌子ちゃんは本当に睦樹さんの事が好きだったんだ……』まどかは、やっと昌子の本当の気持ちに触れたような気がした。


「ごめんね、昌子ちゃん」まどかと昌子は、抱きあいながら泣き続けた。

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