第21話 妄 想

「おはよう」甘いまどかの声で目が覚める。俺は、眠たい気持ちを振り払い上体を起こす。『あれ、これは一体どういう状況なんだ。』俺は状況を飲み込めないでいた。目の前には新妻のようにエプロンを着けて俺を起こそうとするまどかの姿があった。


「もう、本当にお寝坊さんね」まどかは優しく俺の頬にはキスをした。なんだか、こそばゆくて俺は指で頬の辺りをかいた。


「おはよう」俺はやっと目が覚めた。


 そうか、俺達は結婚したんだっけ。まだまだ、新婚生活真っ最中で楽しい毎日だ。今日も快適な一日が送れそうだ。歯を研き、顔を洗う、タオルを取ろうとするが、いつもの場所にそれは無い。


「おい、タオル!」そういうと、彼女はいい香りのするタオルを渡してくれた。そのタオルに顔を埋めると、今日一日頑張れるような気がする。『ああ、まどかと同じ香りだ』朝の、至福の時間である。


「今日は、帰ってくるの遅くなるの?」彼女は、仕事に出掛けようとする俺を寂しそうに見送ろうとする。

「出来るだけ早く帰るようにするよ」俺は日本指で敬礼でもするように、カッコをつけて家を出る。本音を言えば、仕事など休んで、一日中、まどかとイチャイチャしたいというのが本音だ。


 玄関のドアの鍵を閉めて、部屋を後にする。そして、マンションのエレベーターに乗り込み近所の住人と挨拶を交わす。


 俺の住む六階から一階へと、住人を乗せた籠は降りていった。エレベーターを降りて、マンションの敷地を出ようとする時、上から声がする。


「あなた~、睦樹さ~ん、忘れ物よ~、ちょっと待って~」まどかが部屋のバルコニーから手を振る。


「あ、取りに帰るよ」俺は両手を拡張器のように使い声をあげた。一応持ち物は全ての確認したはずであったのだが何かを忘れてしまったようであった。

「持っていくから待ってて~」まどかは、あわてた様子で部屋に姿を消した。


 しばらくしていると、マンションのエントランスからエプロン姿のまどかが走ってくる。

「ありがとう、で忘れ物は?」


「忘れ物は、いってらっしゃいのキスよ」キスをしようとする、突然、彼女の顔は昌子の顔に変わっていた。タコのように唇を吸盤化し、俺の唇に吸い付こうとする。


「うわぁ!」その瞬間に、俺は目を覚ました。途中まで最高の夢であったのに途中から急展してしまった。


「悪夢だ……」俺は、恨めしそうに天井を見つめた。


 

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