第125話 これが師匠から教えてもらった48の必殺技のひとつ!

 快進撃を続けるシエルとダリオスの二人。シエルが掲げる聖杖ルナリスから放たれる光により死霊は近づくことすらできない。

 しかし、近づかないわけにはいかない。ライの救出を阻止せねばならないから。消滅すると分かっても死霊は二人へ襲い掛かる。

 そもそも、死霊にそこまでの知能はない。だが、スカーネルが特別に作り上げた死霊なら話は違う。生前の頃よりは知能が下がるが、多少の事ならば出来る。


 とはいえ、所詮死霊なのでシエルの放つ神聖な闘気による消滅の光には成す術もない。

 そのどうしようもない事実にスカーネルは悔しそうに歯を食いしばっていた。


「……このままではシエルとダリオスがライの封印している場所に辿り着いてしまう。それだけは何としてでも阻止せねば…………。キヒ、奴らを投入するか」


 不気味に笑ったスカーネルは部下を呼ぶと指示を出す。指示を受けた部下は陣地で待機していた、とある部隊を前線へ送り込む。


 快進撃を続けていたシエルとダリオスは後少しでライが封印されている場所へと来たのだが、その時二人の前に大きな影が差す。突如として現れた影に二人が顔を上げると、そこには全身を鎧で覆った巨人が立っていた。


「ギガンテスか! シエル、下がれ! アレは俺が相手をする!」

「いえ、ダリオスさんはライさんを助けるために力を温存しておいてください! ここは私にお任せを!」

「しかし、アレは死霊ではないぞ! いくらお前が強くなったとはいえ、ギガンテスは無理だ!」

「安心してください。私の最大の武器はこの拳です」

「は……?」


 シエルは得意げな顔をして拳を突き上げてダリオスに見せつける。突然、訳の分からないことを口にしたシエルにダリオスは思考が止まってしまう。

 唖然とするダリオスを放置してシエルはルナリスを地面に突き刺すとギガンテスに向かって駆け出す。ダリオスが正気の戻ったころには、既にシエルはギガンテスの近くにいた。


「ま、待て、シエル! 無茶だッ!!!」

「無茶かどうかはその目で見てから言ってください!」


 ギガンテスの足元に飛び込んだシエルは地面を蹴って跳躍すると掌底でギガンテスの顎を打ち上げた。その威力は凄まじく、ギガンテスが仰け反り倒れそうになる。

 しかし、ギリギリのところで倒れない。耐えたと思ったギガンテスだがまだ終わりではない。

 ギガンテスの顎を打ち上げたシエルは上空にいた。

 彼女はそのまま落下するのではなく空中で身を翻えして肘鉄をギガンテスの頭に叩き落す。今度は上からの攻撃によりギガンテスは頭を垂れるような格好になった。


 そこへ着地したシエルが最後の仕上げと言わんばかりに、腰を低く落として地面を砕くほどの踏み込みで背中を使って体当たりをギガンテスに打ち込んだ。


「これが師匠直伝、聖女戦踏拳クルセイドフィニッシャー!!!」


 体内で圧縮した闘気を己の肉体を通して相手の体内へ流し込み爆発させるシエルの必殺技。何の抵抗もなく打ち込まれたギガンテスは鎧をしていようが関係なく、その巨体を爆散させた。


「……キヒヒ?」

「なんだ、それは……!?」


 これにはスカーネルとダリオスの思いが一致した。見たこともない技もそうなのだが、ギガンテスを瞬殺するシエルに二人は驚きを隠せない。スカーネルの方は動揺までしている。


「これは聖剣エルレシオン様から教えていただいた技術です!」

「そ、そうか……」


 可愛らしくピースサインをしているシエルだが、彼女の放った技はあまりにも恐ろしい。それを見たダリオスはもう考えるのはやめておこうと決めたのだった。


 動揺して茫然自失となっていたスカーネルだったが、ようやく正気に戻り、部下へギガンテスを全員投入するように命じたのであった。


「奴らを全員出せ! なんとしてでも止めるんだ!」

「は、はい!!!」

「く……一体なんなんだ、あの聖女は! 本当に聖女なのか! 諜報員は何をやっていたんだ! あんな化け物がいるなんて報告には無かったぞ!」


 怒りに震えてスカーネルは帝都に潜入して情報を集めていた諜報員に対して悪態を吐く。最初から知っていたなら、もっと対策が立てられたろうに。その事が腹立たしくて仕方がないスカーネルは無双しているシエルを強く睨みつけるのであった。


「おりゃああああああッ!!!」

「敵も焦っているのが分かるぞ! シエル、その調子で進め!」

「どおおりゃああああああッ!!!」


 ちぎっては投げちぎっては投げのシエル。まさに一騎当千の活躍である。死霊もギガンテスもシエルの敵ではなかった。

 ただ、女性なのだからもう少し掛け声に気を使った方がいいだろう。もっとも、それを指摘するような者などこの場にはいない。当たり前だ。もう慈愛に満ちた慎ましい聖女を望むのは諦めているのだから。彼女はきっと歴史に名を残す戦う聖女として未来永劫語り継がれるだろう。


「アイツ、張り切ってるわね~」


 シエルの活躍を遠目に見ていたアリサの足元には死霊騎士が転がっていた。彼女は勝利したのだ。しかも、無傷で。その証拠にアリサの体に傷一つない。


「名も知らぬ戦士よ。貴方は強かったわ。出来れば生前に戦ってみたかったけど……。安らかに眠りなさい」


 炎に耐性のある死霊騎士であったが、今のアリサはシエルと同じくライの眷属になっている。そして、魔剣ブラドと契約しており、シエルと同じように修業をつけてもらった。

 その甲斐もあったのか、アリサは死霊騎士の動力源となっていた魔力の核を斬り裂くことが出来たのだ。

 動力源を失った死霊騎士は糸の切れた人形のように崩れ落ち、今の状態となっている。もう動くことは二度とないだろう。


「さて、向こうに合流しますか」


 アリサは聖剣イグニスレイドを肩に担いでシエル達の元へ走り出した。勿論、道中襲ってくる死霊の群れを斬り裂きながら。

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