第17話 大きな町
ゴンガ村を後にしてから数日が経過していた。今日も今日とてライは街を目指して歩いていた。勿論、たた歩いているだけではない。道中、休憩を挟んではブラドとエルレシオンに修業をつけてもらっている。
相変わらず厳しく辛い修業だがライの目標はかなり高い。故郷を滅ぼした魔族はブラドの見立てでは魔王に次ぐ強さという。それが仇なのだ。生半可な修業では決して追いつかないだろう。
『どうした。もう終わりか?』
精神世界で倒れ伏せているライに向かってブラドは冷たく言い放つ。今日も完膚なきまで叩きのめされたライはもう立ち上がることが出来ないでいた。しかし、ブラドの言葉を聞いてピクリと耳が反応した。
それから拳を握りしめてライは立ち上がる。まだやれると目が語っていた。ライはまだ続ける気だった。
『ふっ』
その事が嬉しくてブラドは思わず笑みが零れる。それから、ブラドは剣を構えてライと何度もぶつかり合った。それこそ、数えきれないほどに。
どれだけブラドと修業をしていたのか分からないライは精神世界で大の字に転がっていた。
「ハア……ゼエ……ハア……ゼエ……」
『今日はこの辺にしておこうか』
返事をする体力もないライはただコクリと頷くのが精一杯だった。その後、すぐに精神世界から解き放たれたライは現実でも大の字になって寝転がった。
「プハーッ! キッツいな~~~」
『フフ、そう言いますがマスターは日々成長していますよ』
「そう? あんまり実感ないな……」
『それは仕方がない。修業の成果を発揮できる相手がいないからな』
『ですね。最近は野生動物くらいとしか戦ってませんから……』
「鹿や猪を狩ってるだけだから戦ってすらいなんだよな~」
『まあ、変に増長されないだけいいではないか』
『それはそうですね』
「なんだ? 過去にいたのか、そんな奴が?」
『ああ。歴代の中にはいたぞ。自分が最強だと疑わない者がな』
『勿論、本当に最強と呼ばれる真の強者も存在しましたが』
「へえ~」
興味深そうに二人の話を聞くライ。しばらく、愚痴を零すかのようにブラドとエルレシオンは過去に契約した人物たちの事をライに語った。
「結構、二人も苦労してたんだな~」
『そうだな。とはいっても今ではいい思い出でもある』
『ええ。こうして笑い話として語ることも出来ますから、あの苦労の日々は無駄ではありませんでした』
しみじみと昔を懐かしむ二人にライは笑った。二人は魔剣と聖剣ではあるが感情があるから人間に近い。だから、こうして思い出話に花を咲かせることが出来る。それがちょっと可笑しくて楽しかった。
◇◇◇◇
それから数日が経過して街へ辿り着いた。城壁に囲まれている大きな街でライの見詰める先には立派な門が聳え立っていた。その門の前には多くの人が一列に並んでおり、入場の順番待ちをしていた。ライもそれに習って列へ加わり順番を待つ事にした。待っている間、ブラドとエルレシオンと雑談をしながら待ち時間を潰す。
そして、ようやくライの番が訪れる。門兵がペンと紙を持っており、入場者を記録しているようだ。門兵がライに質問する。
「名前と出身地を教えろ」
「アルバ村のライです」
「アルバ村のライ、と。一応聞いておくが、その弓矢はなんだ?」
「護身用です」
「ふむ。分かっていると思うが街で犯罪などしないように。それから、金はあるな?」
「はい。持って来てます」
「よし。では、これが仮の身分証になる。街にいる間はそれを肌身離さず持っておくように」
金を渡したライは門兵から木の札を渡されてズボンのポケットにしまった。
「それでは、ようこそアルバ村のライ。私達は君を歓迎しよう」
そう言って門兵はライを門の中へ通した。門を潜ったライは目の前に広がる光景に思わず目を開いて固まってしまう。
「うわぁ~~~ッ!」
話でしか聞いた事のなかった大きな街並みにライは感動していた。その田舎者丸出しの反応に周囲の者はクスクスと笑っている。ライは自身が笑われていることに気がついて、恥ずかしそうに顔を赤くしてそそくさとその場を逃げ出した。
大通りから外れたライは狭い路地に逃げ込んでいた。建物の物陰に隠れてライは大通りを見て溜息を吐いた。
「はあ……。あんなに笑わなくてもいいじゃないか」
『仕方ないだろう。先ほどの主は田舎者が初めて都会に来た時の反応をしていたのだ。それが面白おかしかったのだろうよ』
「だからって、あんな風に笑われるのは嫌だな~」
『珍しさと懐かしさを感じていたのかもしれませんよ?』
「どうかな~~~?」
気を取り直してライは大通りへ戻り、本来の目的である情報収集に向かう。ライは復讐の為、旅に出たが仇である魔族の居場所は知らない。だが、仇である魔族は魔王の命令の下、ライの村へやってきたと言っていた。そして、その目的を達成した魔族は魔王の下へ帰った。ならば、魔王がいる場所に仇がいる。
『主よ、まずは宿を探して荷物を置いたらどうだ?』
『そうですね。弓矢と鞄を持ったままでは邪魔でしょうから、そうした方がいいと思いますよ?』
「わかった。そうするよ」
ひとまず情報を集める前にライは宿屋を探すのであった。
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