こぶら女

「ホッパーマンとやら、おまえは本気でそんなことを云っているのか?」

 ホッパーマンはもっともらしく頷くと、

「無論本気だ。ハンター上層部の了承も既に得ている。我々には君の戦力、そして、君が有している情報が必要なのだ」

「私は人殺しだ。おまえも見ただろう。蝮屋敷の住民たちを片っ端から斬ったのは私だぞ」

「田舎博徒が何人死のうが、我々の大目的にはいささかの影響もない。それに君が斬ったのは、全員が人間の皮をかぶったケダモノどもだ。遅かれ早かれ、ボスを先頭に処刑台に登らされた筈だ。罪悪感を感じることはないさ」

「……」

 私は刹那沈黙し、再び喋り始めた。

「理由はどうあれ、おまえは私の命の恩人だ。できれば、おまえの願いに応えたい。しかし、組織を壊滅させた途端に、始末されてはかなわない。この話、すまぬが受けられんな」

「そんな心配は要らない。計画達成後の君の処遇に関しては、上層部も考えている。決して悪いようにはしない」

「どういう処遇だ?具体的に示してくれ」

「生命の保障に加えて、衣食住の不自由のない安息の場所を提供しよう。どこにするかはまだ決定していないが、決まり次第、君に伝える。不満があるのなら、変更してもいい」

「……」

「君は今まで、組織に追われ続けてきた。しかし、これからは違う。君が奴らを狩る番だ。俺たちと共に戦ってくれないか、コブラガール。君の加勢が実現すれば、まさに百人力だ」

「わかった。おまえの期待通りに働けるかどうか、自信はないが、ともかくやってみよう」

「おおっ。協力してくれるか、ありがとう、コブラガール!」

「うっ……」

 私は苦悶の呻きを漏らしつつ、大蛇丸を杖の代わりにして、その場に片膝をついた。

「どうした?コブラガール、傷が痛むのか?」

「体中が疼く。手当てを…手当てを頼みたい」

「すまない。気がきかなかった。今すぐ処置の用意をする。少しの間、辛抱してくれ」

 ホッパーマンはベルトの後ろに右手を回し、治療道具のようなものを取り出そうとした。その瞬間、私から視線が逸れた。それに併せて、私は立ち上がり、立ちざまにホッパーマンの首を刎ねた。鮮血の飛沫を噴き散らしながら、ホッパーマンの頭が池に落ち、水中の猛魚たちを喜ばせた。


 私は蛇王の化身だ。組織の傀儡にも幕府の走狗にもなるつもりはない。足元の死骸を大蛇丸で適当なサイズに刻んだ。勿論食うために。〔完〕

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