ばった男
「大丈夫か、コブラガール?」
カツカツというブーツの音を刻みながら、バッタマンが私に向かって近づいてきた。優しい声だった。飛蝗形のヘルメットの中に、どのような顔が隠されているのかはわからないが、おそらく、正義面の美青年であろう。私が最も苦手とするタイプである。
「あまり大丈夫ではない。あいつの溶解液は強力だ。こうして生きているのが不思議なぐらいだ」
実際はそうでもなかったが、私は生来の演技力を発揮して、そのように答えた。バッタマンは苦笑を孕んだ声で、
「某組織最強の女戦士とは思えない台詞だな。とは云うものの、重傷であることは間違いない。応急処置だけでもしておこう」
「応急処置?おまえはいったい誰だ?なぜ、私を助けるのだ?」
「これは失礼。自己紹介がまだだったな。俺は〔キメラハンター〕の一人、ホッパーマン1号だ。君に会えて光栄に思う。よろしく、コブラガール」
「キメラハンター?」
「ネオ幕府直属の特殊部隊だよ。悪質なキメラマンを狩り出し、退治することを主たる目的にしている。世界の平和のためにね」
「ふん。幕府の走狗(いぬ)か」
とは、心中の言葉であり、それを口にすることはなかった。本音の代わりに別の台詞を喋る。
「そのハンターがどうして私の命を救うのだ?私も悪質キメラだぞ」
バッタマン、否、ホッパーマンは首を横に振ると、
「君は奴らとは違う。たった一人で、あの国際暴力団と戦い続けている孤高のファイター、いや、ヒーローだ。俺は真に光栄だと思っている」
「……」
私がヒーローだって?この男は私について、大きな勘違いをしていた。私が組織の追跡者と戦っているのは、正義や平和や世界のためではなく、単に「自分のため」であり、死にたくないからだ。それ以上でもそれ以下でもなかった。私の沈黙をどのように受け取ったのかはわからぬが、ホッパーマンは話を続けた。
「キメラハンターが現在取り組んでいる最大の作戦は、他でもない。君が以前所属していた組織の壊滅なのだ」
「……」
「かの組織は、ネオ幕府の金剛通達に従い『ミックスマシンの全破壊』に応じたと見せかけて、独自の新型マシンを極秘開発し、凶暴凶悪な融合戦士を作り続けている。警告や指導の段階は過ぎた。我らキメラハンターは全力で彼らを叩き潰すつもりだ」
「だから、何だ?私にどうしろと云うのだ?」
「君の協力を仰ぎたいのだ、コブラガール」
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