遭遇
私に蹴りつけられた第四博徒の体が虚空に躍った。第四は「死の恐怖」を主題にした即興のダンスを演じていたが、すぐに終わった。派手な飛沫を上げつつ、第四が池に落ちた。水の中で激しくもがいていた。
「……」
今になって気づいたことだが、第四は「金鎚」だったらしい。だが、仮に彼が水泳の名人だったとしても、その後の運命に然程の変化はなかっただろう。水面を突き破りざまに、池の中に潜り込んだ瞬間から、獰猛な肉食魚どもが動き出していたからである。ピラニアの群れだ。彼らは血の臭いに極めて敏感である。又、意図的に餌の量を制限されているので、常に腹を空かせている。獲物を見逃す理由はひとつもなかった。
「うぎゃあーっ」
魂消る絶叫が一帯に響き渡った。ピラニアの群れが第四を襲っていた。鋭い牙に全身の肉を咬み裂かれ、八方に噴き出した血潮が、新たな群れを呼び寄せていた。その中に、池の主にして、魚群の帝王たる「巨大ピラニア」の存在が確認できた。勿論、通常のピラニアではない。キメラマンである。
カンキチファミリー、最大の暴れ者〔ピラニアのタク〕の変わり果てた姿であった。信じ難い話だが、タクは自ら融合を志望したという。自宅で飼育していた愛玩魚といっしょに例の欠陥機の中に入ったのだ。
結果、融合には成功したが、タクは人間としての記憶と知能を喪失し、外見も頭の中身も「完全なるピラニア」と化してしまった。処置に困ったカンキチは、タクを「池に放つ」ことを思いつき、以後彼は「蝮池の怪魚」として生きることになった。
「……」
タクに食らいつかれた頭部が、バラバラに砕け散る光景が視認できた。第四は断末魔を上げることさえ許されず、血の池の中で絶命した。
帝王は去り、浮いたり沈んだりしている第四の死骸に大小の配下どもが無数に群がっていた。肉片ひとつ残さぬ丹念な食いっぷりであった。やがて死骸は、天然の骨格標本となって、池の底に沈んだ。
橋の終点に辿り着いた私は、玄関の扉を蹴破りざまに、館の中に踏み込んだ。迂闊だった。この時の私は「首刈り」を優先し、先を急ぎ過ぎた。慎重さを著しく欠いていた。戦士の勘が発する警告を無視すると、とんでもない目に遭うことを再認識した。
「……」
廊下にカンキチと思われるキメラマンの死体が転がっていた。そして、その奥から「あいつ」が現われたのだ。コブラガールの天敵、スラグマンが。
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