賦活

 食事を終えた私は、大蛇丸の刀身を懐紙で拭うと、刃を一旦鞘に納めた。その際「かちん」という鍔鳴りの音がホールに響いた。全身に活力が満ちていた。鼈男のモツを食べた効果が早くも表れ始めたのだ。

 キメラマンの死肉ほど、栄養濃度の濃い食品は他にない。特に鼈男のような屈強のファイターならば尚更である。鼈男のモツは私の疲労を消し飛ばし、新たな闘争エネルギーを与えてくれた。体が戦いを求めていた。

 私は鼈男の死骸に謝意と敬意を捧げると、その場を離れ、両階段の間に伸びる通路を進んだ。突き当りの扉を開け、ホールの外に出た。


 池が見えた。池の中央を貫くようして、橋が架けられていた。終点に小館が建っていた。あかなめの情報通りである。あれも妙な奴だった。私が「蝮の首を土産にして、蟷螂邸を訪ねてみるか」と云うと、異様に面白がり、カンキチに関する情報をペラペラと喋り出したのだ。

 これまでのところ、あかなめの話に誤りはひとつもなかった。しかし、肝心なのはこれからだと云えた。果たして、あの館に、カンキチが在宅しているかどうか。留守の場合は、かなりややこしい状況に追い込まれることになるだろう。が、ここまで来たら、最早後戻りはできない。前進あるのみだ。


 橋の入り口付近に、二台の長椅子が左右対称の形で置かれていた。左の椅子に三人、右の椅子に三人。計六人のやくざが屯っていた。凶暴な面構えの男たちだった。全員が悪事を働くためにこの世に生まれてきたような顔をしていた。いや、ようなではなく、実際にそうであろうと思わせた。

 六博徒の役目は、当然「橋の守り」だろう。侵入者や闖入者の類い(例えば私)を見つけたら、即座に始末するのが彼らの仕事だ。私の出現に気づいた最初の一人が、椅子から腰を上げざまに、私を罵った。

「おい、こらっ。なんだ、てめえは。ここをどこだと思ってやがる。失せろ失せろ。失せねえか。失せねえと、俺がぶち殺してやるぞ!」

 キメラマンたる私にこのような口をきくとは、大した度胸である。余程の自信の持ち主か、単なる愚か者(ばか)かのどちらかだろう。

 私は「屋敷の構造がわからず、あちこち迷い歩いている」風を装いつつ、

「カンキチ親分に会いたい。面接の約束なのだ」

「そんな話は聞いてねえな。帰んなよ、雌コブラ。親分はお忙しい身だ。てめえなんぞに会っている暇はねえ」

「では、いるのだな。館の中に」

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